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kurayami.

暗黒という闇の淵から

理性と薬

積み重なった医学書。何度も書き直された淡い研究書類。黄ばんだ白衣に染み付いたカフェインの香り。これらは全て、彼女と再び並んで歩くための蓄積。成功と幸福を目指す過程の、道端の石ころに過ぎない。 ボクと彼女は、不幸を知らない甘い砂糖菓子で出来た…

白カーディガン

天使だと思ったのは、一瞬だった。 夢を見始めたのは年が明けた頃、少しざわめきが足りない歌舞伎町でのこと。僕は個人で頼まれた仕事をするため、パソコンを抱えてカフェに篭っていたんだ。そのカフェに通い始めて三日目ぐらいかな、昼過ぎに、僕に仕事を任…

メランコリーチケット

私の憂鬱なんて、きっと他人のモノに比べたら些細なことだと思う。 バイトをしていたフリーターが、バイトを辞めたらニートになる。だから、私はニート。バイト先の人間関係から逃げて、そのうちバイトが見つかるだろうとゴロゴロして、もう一年以上経った。…

招かれざる異人

「あら、キャベツ切らしちゃった」 日曜日、少しだけ陽が落ちた午後三時過ぎ。おやつに出されたホットケーキを口に運ぶ少年の前で、母親が呟いた。「ぼく、買ってこようか?」 少年はお小遣い欲しさに、自分から申し出た。「あら本当。じゃあ頼んじゃおうか…

背後ナニカ

「せめて……せめて、許されるなら、」 女は、暗闇に閉ざされた洗面台に向かって、懇願するように呟いた。/// 仕事中のことだった。パソコンのモニターを凝視する女は背後に、大きく威圧感のある、ナニカの気配を感じ取った。しかし、後ろを振り返るが、そ…

かれおちる

花弁が落ちるような動きで、ひらり、ひらりと、僕は落ちていった。 それは花がひっそりと脇役になる、夏のこと。暑さが少しずつ体力を奪っていく、夏のこと。 中学校は長期休暇に入り、僕みたいな帰宅部は日差しから逃げるように、家に篭っていた。クーラー…

秘密の甘味、不安と愉悦

「ここは、僕たちだけの秘密だよ」 貴方はそう言って、私に飴玉を渡した。 子供ながらに〈秘密〉という言葉がとても魅力的で、私は嬉しくなった。 雑木林の奥に見つけた誰も知らない秘密の丘。それが貴方と私の、一番最初の共有。 小学校三年生になって同じ…

終焉を求めた廃線跡

蝉が鳴き始めそうな、梅雨の中頃、夕方。山の中。 期末テストを終え、振替休日を迎えた二人の高校生……片山吉弥と白谷茜は、廃線跡の上を歩いていた。「意外と荒れてるもの、なんだね」 生い茂った雑草を足で踏みながら、白谷がそう言った。 そんな白谷のスカ…

回想列車

私が最初に感じたのは、懐かしく、そして、心地の良いf分の1の揺らぎ。次に、視覚的暗闇だった。線路を走る音、閉鎖的圧迫感から、電車に乗っていることを理解した。 しかし何故、明かりの無い暗闇の電車なんだろうか。何故電車に乗っているのだろうか。何…

ストロマグラナ

植物というのは、太陽光無しには生きていけないモノが殆どだ。しかしそれを欠点とし、弱いモノと見るのは間違いだ。むしろ悩ましいほどに、逞しい。 人間のように様々な栄養、阿呆みたいな欲、贅沢な時間に、価値ある経験を、植物は必要としないだろう。ああ…

内包されたラブレター

ねえ。退屈じゃない? 僕もそう思ってた。だけど、卒業式中に筆談はまずいんじゃないかな。 大丈夫だよ。私たち後ろの方の、真ん中だし。それに最後の最後って、先生たちも喜んでるよ。 そうなのかな。そうだとしたら、かなしいなあ。 悲しいの。前から思っ…

飼育される正しさ

小学校の校舎。鳴り響くチャイムが、三十秒遅れの授業終了時刻を告げた。しばらくして校舎から子供達が、黄色い声を上げて疎らに出てきた。 背中に背負った、黒に赤。中には水色から緑まで。 これからどこで遊ぼうか、今日はこんな面白いことがあったよ。そ…

虚しくも描いていた

私の人生は、予定変更の繰り返し。運命は、何度だって狂った。 幼い頃、私は花屋さんになりたかった。有り触れた少女の夢だったけれど、私は本気だった。でもその夢は中学生で変更された。 友達が書いていた自作小説に影響されて、私は小説家を目指すことに…

ぎやく

左腕の付け根が熱を帯びたように痛くなり、俺は鎮痛剤を探した。机の上で山になっていた原稿のなり損ないを、片手で払い除ける。ひらりと一枚一枚、原稿用紙が舞って床に落ちていく。真っ暗な窓の右上、時計を見れば、短針と長針が“2”を指していた。 最悪な…

ブクロナイン

適切な重さというのは、本人の都合だと思う。 誕生日に合鍵というのは、渡す方からしたら諸刃の剣だ。信用は求められ、時に酷く拒絶される。都合よく場面を使い分ける生物は、きっとヒトだけだ。 重いと思われるか、喜ばれるか。 受け取った私は断然、後者だ…

歓楽街の女に

「ご、ごめんなさい」 塾の帰り。入れ替わりで登校してきた生徒にぶつかって、求められてもいない謝罪が私の口から出た。求められてないからこそ、相手は何も反応見せず、教室の中へと入って行く。 浮いた私の言葉が死んでいった。私は、唇を強く噛んでいた…

雨舞台

僕の晴れ舞台はいつも、雨だった。 小学校のときの授業参観も、中学生のときのリレーも。雨男のそれとは違う。人に見せるときだけ、決まって雨が降る。 雨音が、水溜りが、湿気が……僕の舞台を作る。暗く、湿った舞台。 ああ、それはきっと、次の劇に相応しい…

臙脂色の傘

今日も、あの子の傘はなかった。 荷物の詰まった段ボールが日に日に増えていく。この街を離れるまであと、二日だ。 所謂、一目惚れというものだった。あれは二年前の梅雨。今日みたいに紫陽花が喜びそうな、シトシトと雨が降る、梅雨の日のことだ。俺は冷蔵…

残された結び目

赤い糸、と呼ばれるものがある。 それは運命の糸だなんて言われるけど、私はそうじゃないと思う。だって、赤い糸はきっと、血管の比喩。熱くて、命を流して、脈を打つ。 そう、赤い糸は繋がる……じゃなくて、結ばれる。 だって、例えどんなに愛し合って繋がっ…

迷えるノースポール

「ママー……どこー……」 少女の呼びかける声が、黄色くなった空と十字路に響く。 迷子の声は、母にも、誰にも届かず、ただただ不安混じりが濃くなっていく。 十字路を真っ直ぐ抜けた先、少女は白い砂浜を歩いていた。荒波が立てる音は、少女の呼ぶ声の気力を消…

夢寐病

人工的な静けさに包まれた東京に、中央線の音だけが響いていた。 乗客が存在しない電車は、もはや意味のない虚しい往復を繰り返している。 二十四時間のコンビニも、眠らない街も、夢の幻だったみたいに機能していない。 約二十日前。半数以上の都民が、まる…

黒い匂い

ふわふわぼさぼさの寝癖が、目立つ男の子だった。 たまに中でも会えたけど、中庭に行けばもっとたくさん会えた。 出会いは確か、私がカマキリの卵が孵ってるとこを見ていたとき、横からあの子が覗いてきたんだっけ。そうだ、カマキリのメスがオス食べちゃう…

ダークインダーク

「何処に行けばいいの」 希望のない明日に解き放たれ、路頭に迷う少女。 望んだ自由。 支えのない未来。 一生目に慣れることのない暗闇の中を、少女は手探りに進む。 少女を引く手は、もうない。何処までも何処までも、漠然とした不安に心をミンチにされなが…

感染思想、君に終止符

私があの人と出会ったのは、そうね、今みたいに桜の花弁が落ちて、緑が生い茂ってきた頃かしら。話し掛けても無愛想で、でもその癖、気まぐれに向こうから話し掛けてきて、こっちが適当な返事をしていると怒るような人だったの。だけど、私が話を聞いてる内…

猫の目

「やだなあ、次郎さん」 僕は懐いた声で、先輩に言った。「いやいや、でも正樹くんは絶対学校でモテると思うんだよね」 バイトの控え室。同じ休憩番になった先輩に、僕は良い顔をしていた。 先輩の顔を見ると、鼻の横に大きなニキビを拵えている。「僕なんて…

理に反する夕影の教室

夕方の空き教室。そこに、終えた学校の雰囲気に取り残され、更に尋問のために囚われた男子生徒……片山吉弥が、窓際の席に座っていた。 そして、その片山と対峙するように、黒板の前に一人の女子生徒……白谷茜が立っていた。はねっ毛のあるショートボブの黒髪、…

リバシブルボーイフレンド

「いやあ、困ったなあ」 私の部屋、ベッドの上。 全裸の彼がそう言ってるけど、きっと嘘。「困ってなんか、いないでしょ」「はは、貴方。普通の人間なら、皮膚を全部裏返しにされたら『困ったなあ』って言うものよ? なにを疑っているんだい」 そう言う彼は…

nina 2月から4月末までのお題。

twitter.com nina_three_word.が始まって、約三ヶ月が経ちました。こんばんは、ワード組み合わせ担当の千代恋あめです。 2月6日から4月30日までのお題を、ワード選出担当の肩甲骨にまとめてもらいました。過去題をやる際にどうぞ。#nina3word のタグと共に…

脈打つ鬼の角

私に感情があることに気付いたのは、つい二日前のこと。 私が家畜化動物である〈天鬼〉だということを知ったのは、ついさっきのこと。 私以外の天鬼が死んだことを聞いたのは、たった今のこと。 私は膝の上に両手を行儀よく重ねて、椅子に座っている。ただ、…

積もる質量

「今日は早かったね」 貴方がいつもの場所、公園のベンチに座っていた。「遅かったね」「待ってたよ」「お疲れ様」「おかえりなさい」 この場所に来れば、 貴方は必ず様々な言葉で私を迎えてくれる。 それが例え、口数が少なくて言葉の貧しい私でも。 私から…

ヤングドーナツの穴

トタン壁に挟まれた細い道の先、住宅街の裏と比喩するのが相応しいような入り組んだ先に、その駄菓子屋はあった。 駄菓子屋の前には、三人の男の子がメンコで遊んでいる。 そこに、キャップを被った男の子が恐る恐る近づき、それに気付いたタンクトップの男…

/新宿

新宿歌舞伎町靖国通り。 飢えた運転手を乗せた、 タクシーのオンパレード。 手を挙げりゃ捕まる、 馬鹿でも乗れる君好みのカー。 眠った昼も眠らない夜も、 タクシーのオンパレード。 新宿から繋ぐ、金の限り、懐の限り、 諭吉が尽きるまで、何処までも。 酔…

誘うお化け

「お母さん、もう帰っちゃうの」 複数のチューブに繋がれた少女が、寂しげに母親に向かってそう言った。 夜九時前。病院は徐々に、明かりが失われていく。「ごめんね、でも明日の朝になればまた会えるから。ね」「んー……我慢出来たら、いい子? わるい子じゃ…

死にゆく人

大勢の人が暗くした部屋の中で、天井に映し出された擬似的な星空を寝転んで見ている。双子座にオリオン座に、子犬座。冬の夜空。口にはまるで、長い間お預けにされていた玩具を貰った子供のように、笑みを浮かべている。 部屋の中央には、市販のプラネタリウ…

滲んだアルバム

冷たくて脈拍のない、思い出のインクが疎らに滲んだアルバムがそこにあった。 インクの滲んだ場所を避けて目を通すと、どうやらこのアルバムの主役は〈男〉だということがわかった。滲みは、奥に進むにつれて酷くなっていく。最後のページは、様々な色のイン…

セコンドプロローグ

これからする僕の〈話〉は、決して嘘偽り、虚構の物語、ではない。これから先の未来に始まる瞬間の物語であり、とある過去の何時かに起こった記憶でもある。しかし、だからと言って覚えておく必要はないよ。今、この〈話〉を聞く貴方は、過去の貴女でも、未…

ボーイミーツ

ユウイにとって、カリュは使えるモノだった。 貴族の男……ユウイは、この三十年間。使えるモノは全て使い、最後まで使った。そうやって今の地位まで成り上がったのが、ユウイだった。 ユウイの日常には、常に優秀な執事の男……カリュがいた。礼儀正しく、自身…

一夏の儀式

カラカラの夏休みのど真ん中、八月上旬。午後二時過ぎ。 連休に慣れ始めて暇が一周した僕は、意味もなく家を出た。炎天下に熱された黒いコンクリートが、高温の悲鳴を上げている。早速家を出るんじゃ無かったと、酷く後悔をした。クラスメイトは、今頃なにを…

純粋に好き

やわらかい揺らぎの中、私の素直な心情は、どこまでも透き通って、どこまでも見通せた。 この広い心情の中に、様々な思念が浮かんでいる。ぽつぽつと、いろいろなことが浮かんでる。私を脅かす不安、幸せな思い出、この先への希望。どれも孤独に浮かんで、互…

トワイライトベース

小学生の放課後、僕らの住むマンションの裏にある公園が、いつもの集合場所。いつからか「いつもの公園」だなんて呼んでいたっけ。 二人の友達が僕にはいた。同じマンションのトッシーと、秘密基地発案者の課長くん。本名を忘れてしまうぐらいに昔のことだけ…

無益な屋台

賑やかな音、暗闇の中でぼんやりと光る赤、黄、緑、白の明かり。 さっきまで、お母さんに手を引かれて帰っていたのに、いつの間にか森の中。お母さんはどこ。でも、こんなことで私は泣かない。だから、えらい。 迷子になったときは、おまわりさんか、怪しく…

愚かな事実の向こう側

その水流の音からは、高さと勢いを感じ取れた。今の私にとって必要な条件が揃っている。 人が死ぬのには十分な高さと、勢いを持つその滝は山の奥にあった。川の上流の方から夕陽が射し、滝の底には夕影が作られている。山々から夏の音と共に、涼風が流れてく…

あの子色

僕があの子と初めて話したとき、心が何色かに染まった。 明るい色だったと思う。黄蘗色みたいな、薄くて明るい色。それでいて少し暖かい。気付いたらそんな色だった、ああ暖かいな、その程度。 心が何かに触れると、灯るように色がつく。そしていつの間にか…

ノウハート

神の気まぐれも起きないような、厚い雲に覆われた暗い昼下がり。その子を助けたのは、僕の気まぐれだった。 薬品に枯れた森の外れ、女の子が逸れた兵士に襲われていた。 直感的に気に入らないと思ったのは、力の強い方。僕は〈想い〉を兵士に向けた。兵士の…

ユルサレル

マンションの屋上に、一人の少年が立っていた。 少年は色白で細く、夏の空気に合わない、紺色のカーディガンを着ている。 夕焼け。それは大人と子供にとって、受け取る感情が変わる景色。少年の目に映る景色は、日の終に満ちている。 少年のポケットに入った…

勝敗の行方

負けず嫌いの二人は、高等学校に入学し、同じクラスの振り割られた時に初めて出会った。 久野耕太と長谷川美優。共に容姿も、学力も、運動能力も、平均。しかしその負けず嫌いは、誰よりも強い。 そんな二人が初めて競ったのは、ある登校時。校門前で二人は…

上書き保存

聞かれてないから、隠し事。言ってないから、隠し事。 僕の場合は、言えないから、隠し事。 過去だなんて、記憶だなんて、知ったからどうにかなるわけじゃない。共有したところで、僕の身体にあるものはどうにもならないし、僕の認識は変わらない。彼女は帰…

グラトニーラヴァーズ

人より食事量が多い人だなあ、と僕が思ったのは、彼女と出会った頃のこと。 それは見るからに……という訳ではなくて、よく見ると多かった。学食での昼食、ファーストフードに入ったとき、飲み会のとき。大盛りとかじゃなくて、品数が多い、そんな印象。 食べ…

バスルームシーン

その映画は、電気が消えたリビングの中で、呆気ない終わり方をしてしまった。 宇宙船の中で鉢合わせたエイリアンとの死闘。仲間の死。そしてラストシーン……主人公のお腹の中に寄生したエイリアンを映して、バッドエンド。 エイリアンが何処から来たのかとか…

キャンディロープ

僕の前から彼女がいなくなって、二ヶ月が経った。「もし……私が帰れないとき、ああ、もしもの話だ。そんな不安そうな顔をしないでくれ。いつもの飴を瓶に詰めて、食器戸棚の一番上に置いておく。まあ、帰れないとき用だから、いつもより良いものを用意しとい…