kurayami.

暗黒という闇の淵から

習作

ダブルアップルジャスミン

ベルガモットブルーヘブン

パンラスローズライチ

ライチライチ

ラベンダーミント

タンジェリンジャスミン

エターナル

カサブランカネスクイックリー

フレッシュ

ヒノキラベンダー

ラズベリーローズミルク

ストロベリーヨーグルト

レモンローフ(旧題:部屋)

ピッチャーの影

根岸の〈忘れられない思い出〉を小説にしました。 高円寺駅北口ロータリーにて。

豚な女帝

ペットボトルの人魚

泥水

カゲロウ

僕にはフォーカスが合わない。 そう、普段から思っていた。 駅は、帰路に急ぐ人々で溢れ返っている。時間にしてまだ平日午後三時。普段夜中に帰る僕は、この時間の帰り道を知らない。ああ、知る由もない。僕は日常のレールからわざと外れ、逃げるようにこの…

氷菓、酔歩

日曜午後の高円寺は、暖かさと平凡に溢れていた。高円寺特有のアーケード続きの商店街を各々が求めた店へと向かって人が流れていく。俺だって、その一人で。気怠そうな足が向かう先は路地裏にあるカフェ。飢えに渇いた喉が、甘い炭酸を求めていた。 そのカフ…

消失点

熱気が苛立ちと共に俺を包み、前髪に汗を滴らせた。 コンクリートの硬さが一々身体に負担をかけて重圧が歩みを遅らせる。しかし、気が遠くなる真夏の残酷とは裏腹に、俺の精神は酷く落ち着いていた。「ああ、大丈夫だ」 わかっていた。 全部わかっている、理…

冷たく白糸を解かれて

藍色が色濃く、深く染まる黒髪の夜十一時過ぎ。 冬の冷たさが終わるべきモノたちを、凍らす前に。 高層マンションの屋上から、少女が眠る街を見下ろしていた。白く揺らぐ子の朧な光。無人の道を濡らす街頭。夜に襲われて拭えない一室の明かり。街は鼓動する…

だからとニヒル

別れて以来、久々に彼と連絡を取った。二年ぶりぐらいに。『久しぶり、元気だった?』 なんてことのない彼の返事。私は淡々と返し続けて、固まっていた想いが解れて、どろどろに溶けていくのがわかった。ああ、良かった。電気の消えた十二月の自室は、窓から…

ここに

長い綴りを、僕はやっと終えたようです。 誰かを救えたでしょうか。 この一年、ずっと神さまになりたい想いで続けていました。誰かの、みんなの。希望の光のようなモノでありたいと思っていました。罪で愚かな願望です。しかしそれが虫の息で今にも死にそう…

終心

私は何かに呼ばれるように、外へと出た。 水曜午後三時半、雲のかかった冬の空が高く舞い上がってる日。洗濯も課題も全部やることは済んでいた。コンビニへ行こうにも買いたい物は何も思いつかない。一体、私は何に導かれているというのだろう。そもそも気の…

憧憬

僕は僕を失っている。 過去という積み重ねを。履歴という、僕を。 長い放棄癖の果てに「気付けば」というモノだった。失ってしまったのには理由が幾つかあって、まず第一に自身をどうでもいいと思っていたから。第二に目先の未来への希望に縋っていたから。…

グラデエション

「私は、この部屋の窓を酷く気に入ってるよ」 男は窓から溢れる眩いばかりの陽を背に、暗い部屋の奥へと話しかけた。「夕焼けが好きだからね。景色の向こう側へと沈む様子をいつまでも見ていられる。特に珈琲を淹れることもなく、ただ黙って手ぶらで眺めるだ…

眼と妄

時折、彼は空き教室で項垂れていた。電源が切れたように、全てを投げ出したように。明るい子ではなかったけれど、愛想笑いを絶やさないような子だったから、たまに見かけるその姿に私は惹かれてしまっていた。 普段は耳に掛けている髪が、目にかかっている。…

夜から朝へ

一年という時の中で、冬の午前四時はたぶん、一番冷たい。 貴女といても。いや、貴女といるから。「空、ほんの少しだけ明るくなってきたね」 全てを終えた裏路地。僕の隣で温くなった缶コーヒーを手に持って、彼女は震える声でそう言った。コートとかタイツ…

まじないの怪物

男が一歩を踏み出した時、木造の床が泣くように軋んだ。「じゃあこの貝殻は? いくらよ」「お前さんじゃ、買えないぐらいじゃろうなあ」 欠けた桃色の貝殻を手に取った男に対し、支払い口に座った老人が答える。 小さな豆電球が無数にぶら下がった店内。傾い…