読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

kurayami.

暗黒という闇の淵から

幸福な患者

最初は、小鳥を可愛がるぐらいの気持ちで、僕はその子に近づいた。 小鳥というよりは、ひよこみたいな、可愛くて簡単に潰れちゃいそうで、まさに黄色が似合うような、明るくてひ弱な女の子。彼女とは、小学校の同窓会で出会った。向こうは僕を覚えているとい…

呼吸を止めて、桜

春のそよ風は、何かを、揺れ動かす。 それは、桜の繊細な枝や、アマリリスの太い茎、昼寝をする野良猫の上下に動く髭、 そして、女の子のプリーツスカートも。 美与はもう、駅前の時計の下で待っていた。白いシャツに、紺色のカーディガンとプリーツスカート…

プレゼント、アイ

「なあ、お前、俺の手伝いをしないか?」 その男は、グラスに烏龍茶を注ぐ俺を見て、そう言った。男の足元には、動かない兄が、昼寝をしているかのように転がっている。「お前みたいに、こういうのを見ても動揺しない……そう、感情が欠如したようなやつが、必…

眼窩に花束を

「なあ、お前、俺の手伝いをしないか?」 その男は、俺の兄の腹部に刺さったナイフを抜きながら、そう言った。息絶えた兄が、重い人形のように転がる。「お前みたいに、こういうのを見ても動揺しない……そう、感情が欠如したようなやつが、必要だと思ってな。…

行き止まりアスファルト

良い天気とは言えない。暗雲のかかった空の下。 男は何かを目指して歩いていた。どこまでも続く、黒い黒い、アスファルトの上を。 滑らかで綺麗なアスファルト、その道の外。浅い、枯れた草原が、どこまでも続いている。男は道を外れる気にもなれず、アスフ…

初恋禁忌

「キキちゃん? へえ、漢字でどう書くのさ」 金曜日の夜、橙色の明かりを灯す、バーの中。賑わいを見せている中、キキと呼ばれた少女が、隣に座った酔っ払いの男に絡まれていた。「絆のキと、綺麗のキで、絆綺って書くんです」「可愛いねえ、ええ? お嬢ちゃ…

半田鏝の過ち

夏の青空を、まるで、空の高さに合わせるように飛んでいる飛行機の音が、中学最後の教室に響く。この島の飛行場は、帰省時期もあって忙しそうだ。 夏休みまで残り半月、授業は“締め”の雰囲気を見せていた。「あーえっと、夏休みが近いからって浮かれるなよ、…

死食鬼の夢幻、現実入門

「君に、夜明けなんて一生来ないよ」 半月が浮かんだ丑三つ時。僕は、綺麗な金髪の女の子に、斧を振り下ろされた。 ああ、もっと遊んでおけば良かったな、なんてのが、僕が生きていたときの、最後の記憶。 「おはよう」 目覚めたのは、硬い土の上だった。少…

上映期間

眩い証明が落とされ、開幕を合図するブザーと共に、真紅のカーテンが開かれた。 無言の拍手。 メトロノームが、動き出す。 舞台の上、下町の病院の中、一人の男の子が産まれた。男の子の親は、初めての子供をとても喜んだ。 男の子は、とても、利口な性格の…

坂道の街

私の住むこの街は、山の麓にあるということもあって、坂道がこの街のシンボルとでも言えるんじゃないかというぐらい、多かった。 だから、この街の住人は、帰るのに坂を登る人と、帰るのに坂を下る人に分かれる。 私は前者、帰り道は登る人だ。 今日最後の授…

奈落のニルヴァーナ

広く、静かな黒い水面に、主を無くした小さな船が漂っている。 低い空には、幾つもの世界が、継ぎ接ぎに写し出されている。 ここは、奈落。世界の舞台下。 そこは、手紙の世界の奈落。父を憎む物語。連続する不幸の中で、異形と化し、海を彷徨う様が、写し出…

甘党と化け物

由奈と出会ったのは、緑道を飾る、木の葉が落ち切った十二月のことだった。 バイト先だったカフェの、別店舗のヘルプに行ったときに知り合った。由奈はまだ入ったばかりで、忙しく教える人がいない中、別店舗の俺が仕事を教えていくうちに、仲良くなったんだ…

十二年前の罪

「もう、あれから十二年も、経つのね」「ん……そうだね。この日を忘れたことなんてなかったけど、そっか、もう十二年も経つんだ」 僕ら佐伯家は、元々六人家族だった。 陽気でいつも踊ってるような母さん。いつもへの字に口を曲げた父さん。その父さんの方の…

モノクロシティ

温度のない風が、私の黒い制服のスカートを揺らした。 色のない建物。モノクロの空、その空の淵に、冷めた一等星の星雲が囲んでいる。 三日月町。 この町に来たのは、私の意思じゃなかった。逃がされたのだ。どこかの、お人好しに。「このままだと殺されてし…

セピア色の街

空中浮遊するビル。セピア色の空。街の付け根に曼珠沙華。 少年の片手に、一匹の海水魚。 青見実奈が、高校帰りの放課後、喫茶店で優雅にソーダフロートの上のアイスを口に運んでいるときのことだった。少年が、ダツ目ダツ上科サンマ科の、秋刀魚の尾を片手…

街灯路

気がつけば、少女は闇夜の路上にいた。頭上には、街灯が闇に馴染むよう、橙色に灯されている。 少女はというと、セーラー服の上からエプロンを巻いて、片手におたまを持っている。自分が何者で、自分が何をしているのか、今日が何曜日で、あと何回学校に通え…

鶯菜の想像価値

「小松菜、たけのこにょっきっきしようぜ」 昼食と五限の間、余韻の時間。私はクラスの男子、小林に声をかけられた。「いやだよ……そんな人数集まってないじゃん」 小松菜というのは、私、小松菜奈のあだ名で、なぜか苗字より長い、そのあだ名がみんなに採用…

醜態へ

拝啓 おだやかな水流を手の甲に感じて、お父さんを想い、ペンを持ちました。 お元気ですか。私が家を出てもう七年が経ちましたね。女子中学生が大人になるような時なのですが、不思議と私は、そんなに長いとは思いませんでした。お母さんとは会っているので…

洗い落とす

アラームもかけず、本当に、なにもやることがない、休日のことだった。 俺は、午前中に目が覚めてしまったんだ。二度寝するのにも足りない眠気を引きずって、俺は布団を出た。曇った鏡に、浅く無精髭を生やした、俺が立っている。外は、ただただ眩しそうに、…

巫女の聖剣

私の気持ちは、水流のように、永遠に流れ続けているはずでした。 「ねえねえ」 神社の掃き掃除をしていたとき、彼は私の白い裾を引っ張った。「あら、どうしました?」「かみさまって、どこにいるの?」 純粋で無邪気な質問に、私はクスっと笑ってしまう。「…

隣の海は青い

僕は、いつでも、彼女の、有美の写真を納めてきた。 石畳の道の上で、恥ずかしそうに笑う写真。初めてのデートで浅草に行ったときのもの。 浴衣姿を着て、畳の上に疲れて座り込んでる写真。二人で仙台旅行に行ったときのもの。 僕の部屋を背景に、両手でピー…

仮面の街

その街……馬落市は山と山に囲まれ、ひっそりと、そこにあった。 私立サカス探偵事務所は、今日も依頼もなく、時間を潰している。「ちょっと志倉さん、今月入って八人目ですよ。放っておいていいんですか!」 特撮ヒーローのお面をつけた青年が、この事務所の…

無題の地下室

家に帰った男は、電気を付け、台所に入る。スーパーで買ってきたものを、テーブルに並べた。卵、玉ねぎ、牛ひき肉、パン粉。男は冷蔵庫を開け、ケチャップ、ウースターソース、牛乳の確認をする。今日の晩御飯は、ハンバーグだった。 必要なものが揃っている…

漂流する声

終末の静けさというのは、こういうことを言うのかもしれない。 早朝に目が覚めた私は、家の前にある海辺へと出かけた。朝の潮風がとても冷たい。季節で言えば夏のはずなのに、少し得だ。 いつもみたいに、海辺を、私が端から端だと思う場所を歩く。風や潮が…

反希望レシピ

有り触れた、陽射しの気持ち良い三月の昼間、この休日。 私はキッチンに立ち、フライパンに落とした砂糖を水に溶かして、焦がしている。甘い香りが、徐々に殺されていく匂いが、キッチンを包む。 殺しすぎないよう、時間と、火を調整をして、黒くしていく。 …

錆びついた手

東京のとある下町。曇天の影に覆われた午後。 古く、錆の目立つトタンで出来た工場が、密集し、そのほとんどが寝たように、機能をしていない。 その中の一つ、看板のない工場のシャッターが半分開いていた。中では、作業服を着た一人の男……肉月が、片付けを…

戯曲にもならない

なあ、そこのお前、ああ、そこのお前だ。悪いが聞いてくれないか。なに? 酔っ払いみたいだ? 死にしそうだ? いい、どうせ助からない。いいから聞けよ。 俺の、狂気の言葉を、悲劇を、復讐劇を。 この悲劇の卵は、朱雀先生が紅櫻先生を殺害したとこを、目撃…

特別な枯骸メモ

僕は何かと、身体にメモをする癖があった。 今日だって、いくつかのメモが残されている。 ・卵 ・期末テスト9から8 ・咲良に太宰 帰りに買う食材、期末テストの日付変更、そして彼女との約束ごと。急に太宰が読みたいから持ってこいだなんて言うのだ、なん…

床下のわたし

とろりと、それは黒髪の、宿主の手首から離れた。 「将来が見えない。どうしようもない」「時間がない、時間がない」「ああやだ、やだ、なにも考えたくないよ」 手首を伝って、それは、ここに落ちてくる。 「消えたい消えたい消えたい」「なんでかな、なんで…

そこに私がいなくても

「お仕事お疲れさん」 アシュラフがそう言って、自身のリストにチェックをつけ、タバコを一本取り出す。すかさず私が、火をつける。 床に転がったターゲットを見て、私の仕事はこれからと、ため息をついた。 アシュラフと私は、女性限定ターゲットの殺し屋だ…

旅の記録 -高校生の旅-

《前回》旅の記録 -始まりの旅- - kurayami. 高校二年生になり、僕はバリバリのツイッタラーになっていた。いろんなところにフォロワーがいて、いろんなところに友達がいた。 例えば、徳島にはRちゃんという同い年の子がいて、夜のスカイプ通話で「明日来い…

恐怖演出家

日の明るさがまだ残る夕方、男が目覚めるのを、彼女はベランダから見ていた。「美優?」 男は暗闇に声をかけた。おそらく、自身が脱ぎ捨てた服を探しているのだろう。返事がなく、諦めた男はベッドから降りて、電気をつけようとスイッチを押す。男は二、三回…

旅の記録 -始まりの旅-

旅をすることが好きだった。 中学生のときに読んだライトノベル『旅に出よう、この世界の果てまで』が、大きく影響をしていると思う。その作品はタイトルの通り、旅に出る作品で、少年と少女がカブに乗り、北海道を旅する。それがなんだかとってもかっこよく…

喪服みたいな制服

制服が真っ黒で良かった、と思った。 でも、学校で会ってるみたいで現実味がないなあ、これ。 死んだ晴川は、友達だった。 晴川は、高校入ってからの付き合いだった。なんだか腑抜けていて、俺のちょっかいを、なんでも許すようなやつだ。それが、まさか高校…

望まれた溺死

荒野の中、土埃を立て、俺はバイクを走らせていた。風で俺の白衣がなびいて、汚れる。そんなことは、自由の疾走に比べたら軽いものだった。 後ろで、彼女が腰に回した手に力を込めた。深いローブで顔は見えない。俺は、片手で、その鱗に覆われた手を撫でた。…

望まれない溺死

倉崎香奈恵にとって、死にたがりの高山蝶乃は親友だ。 二人は小学校のときからの仲で、それは高校に入っても、三年生になっても変わらない。例え蝶乃が、演劇部に入っても。香奈恵はいつものように、自転車置き場で、蝶乃を待っていた。 夏の夕暮れの涼しさ…

許された恋

『……えーただいまお送りした曲はベートーヴェンさんで、ピアノソナタ、第十四番でした。ハイッ、FMスリーナイン、アンテメリーディエムボイスは、今夜も僕、DJ千代恋と!』『私、暗闇ちゃんでお送りしていくね』『あれっ、暗闇ちゃん髪切った?』『切っ…

生温い告白

僕が、高校生でいられる最後の、年の夏のこと。 毎年のように、僕は僕の住んでる街を出て、旅に出たんだ。ただその年は、一年生や二年生の時と違って、日程とか、ある程度どこに泊まるかというのは決めていたんだ。旅というよりは、旅行に近かった。たぶん、…

偏食の天井

夕飯を食べ終わった辺りから、私は少し、憂鬱になる。 秋刀魚の骨が乗ったお皿を片付けて、寝巻きを揃え、入浴の準備をする。さすがにお風呂に入っている間は、別のことを考えるけど、それでも私にとって夜は、 寝ることは、憂鬱なことだった。 私には、五つ…

世界の話。

なろうに上げている作品、三題噺作品など。その背景にある「実はこういう繋がり」「実はこういう設定」というものに触れていこうと思います。野暮ったいかもしれないんですけど、もし興味があればお付き合いください。 〈 紫苑高等学校の世界 〉初出は『飢え…

千代恋 雨

改めて、初めまして。千代恋 雨って言います。名前の由来は“チョコに恋して雨”という素敵なフレーズからです。しかし、チョコなんてどろどろに溶けました。 暗く、後ろめたい物語を書くのが好きです。たぶん、癖っ毛女子が好みのように、性癖みたいなものか…

ビー玉

午後四時過ぎのこと。 男……リュウガは、読み終えた本を、窓際に置いた。日中だというのにやることがないと、不満に思い、ため息をつく。 見た目の割に、重いコートを羽織り、長年お気に入りのラッキーストライクと、マッチをポケットに突っ込み、リュウガは…

灰者

神代幸と出会ったのは、高校を卒業してからだったと思う。 この高校を卒業をした前か後かという線は、俺の落ち度を知らないか知っているかという、重要な線で、神代は数少ない後者だった。 どうでもいい出会い方だったはずだ。同じアルバイト仲間の友達の、…

肉月

私があの子……香菜とケンカをしてから、半月が経った。 仕事終わり、いつものように、携帯の通知を見ても、あの子の名前はない。そう、甘えたのあの子から連絡するはずがないの、けど、私から連絡するわけにもいかない。 今回はいつもと、少し違う。ルールを…

どろどろ殺意

『あの、ホ別2ってなんですか?』 その子……前田一郎君と、知り合ったのはネットの掲示板だった。 やたら用語を聞いてくるから、私と同じ、大学生なんだろうと思っていたけど、まさか、高校生とは。 しかし、金はしっかり払うし、無理な行為を望むわけでもな…

耳たちの休日

神の気まぐれのような秋の空に、一本の飛行機雲が、黒い鉄格子の隙間から見えていた。 「実験がない日なんて、久しぶりですね」 目、手足のない少女……“目見えず”が、ルームメイトに話しかけた。「いつぶりだろうなあ。最近はお偉いさん方が焦っていたことも…

リピート

身体に篭った熱で、目が覚めた。近くには、ストーブがあって、篭った熱は、これのせいかとわかった。なんでこんな近くにあるんだろう、暑くてしょうがない。しかも、椅子に座って寝ていたせいか、背中が痛い。それに、なんだか、嫌な夢、気分の悪くなる夢を…

ハルシオン

「おはよう」 誰もいない台所に、私の声が響いた。机の上に、値引きされたあんぱんが置いてある。 返事を望んだわけでは、なかった。ただ、一言「おはよう」と言えば、私は朝に生きていると実感できるだけ。「いただきます」 マグカップに牛乳を入れて、あん…

その名が辿るもの

「あのね、しってる?」 「なになに」 「おおつき山のね、うら山にはね」 「うらやま?」 「おおつき山の、うらにある山のこと!」 「あー……しってる、しってる」 「そう、その山にね、入るとね、向こうにも、こことおなじ町があるんだって」 「ええ、どうい…

真っ赤な林檎

「あのね、りんごを見たの」 縁側から声がした。麦わら帽子を被り、水色のワンピースを身に纏った少女が、つま先を伸ばし、にこにことしている。「あらあ、ここら辺に林檎の成る木なんてあったかしら」 少女の祖母は、頬に手を当て考える。「本当に見たんだ…