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kurayami.

暗黒という闇の淵から

捕縛

 時間にして、深夜二時のこと。僕は大学のレポートと対峙していた。その日付の午前中、つまり数時間後に提出のレポート。書くことも思いつかなくなり、僕は一度外に出ることにした。コンビニでもなんでもいい、外に出たかった。一瞬逃げることも大切だと、自分に言い聞かせて。
 さっきまで降っていた雨は止んで、空は透き通るように夜空が見える。僕の白い吐息が一瞬空を遮る。そういえば先輩が言っていた、雨が降ることで空の埃は落ちて、雨上がりは夜空が綺麗に見えるんだって。……先輩、先輩か。コンビニまで歩いて十分、遠回りすると……もっとかかるんだよな、それなら。そう思って僕は遠回りをすることにした、ずっと先輩のことで頭がいっぱいで、それを一旦落ち着かせたかったから。
 遠回りをするとき、必ず川沿いに当たる。川沿いに並んでいた自動販売機で缶コーヒー買って、川沿いに腰を落とす。缶コーヒーは、この広く冷たい空気の世界で唯一、暖を僕に与えている。しばらく開けずに、両手で缶コーヒーを握る。川の水はほとんど干からびていたけど、夜の暗闇が川を隠していて、特に変わらない。その溝を見つめて考える。
 この前大好きな先輩の家で、僕の誕生日パーティがあった。やろうと言い出したのが先輩だったということもあり、先輩の家でやることが決まったのだ。そのことを知って、それはもう喜んだ。仲の良い友人たち、僕の大好きな青色の飾り付けと、大きなストロベリーショートのホールケーキ。楽しいパーティは昼から夜遅くまで続いた。帰り際、先輩が「ああ、いま本を返そうか」と僕を引き止めた。再び先輩の家に上がると、僕と先輩は二人っきりで、幸運なこともあるものだななんて考えていたとき、先輩の机の右上、マスキングテープで貼ってある写真が目に入った。外国の、黒人の大人と抱き合っている写真。僕は、少し迷って、先輩に聞くと、
「あのね君。私は、どこにだって行けるんだよ?」
 先輩は、寂しそうに笑って、そう言った。
 缶コーヒーはもう、空だった。先輩は、どこにだっていける。その言葉で頭がいっぱいだった。先輩は、なにが言いたいんだろう。僕はなにがしたいんだろう、この不安は、どうすれば拭えるんだ。

 

妖怪三題噺

「黒人 マスキングテープ ショートケーキ」から

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