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kurayami.

暗黒という闇の淵から

枯れていく


 私は花が見たい。

 日の光がさす部屋の中。世界を恨むコーネリアがそう呟いて、私に真っ白なコンパクトディスクを渡した。見たい花だなんて、もうこの世界に存在する有機物は、貴方と、あの吸血虫ぐらいですよ。
 この世界はもう、吸血虫によって、ほとんどの生き物、花、木が枯れ果てている。三年前、「蚊」と呼ばれる虫がある町に大量発生した。ただの「蚊」の大量発生だと思ったが、そうじゃない。それは、もっとたちが悪いものだった。その小さと、繁殖力、数の吸血に対して世界に逃げ場なんてなかった。
 血の奇病を持つ、余命残り少ないコーネリア。皮肉にもその奇病が、コーネリアを虫たちの猛威から救う。ただそれは、残り少ない余命を、この世界でただ一人、狭い部屋、ベッドの上で生きていくという悲劇を迎えたに過ぎない。コーネリアの話相手は、この私という無機物のロボットだけ。私はとても楽しいけれど、コーネリア、貴方は可哀想だ。もう、家族にも、友人にも、血の流れているものにも会えない。
 私は、コーネリアの願いはできるだけ叶えてあげたい、そう思っている。そういう、プログラムが、人に従う組まれているのかもしれない。そんなものは知らない、これは私のカンジョウだ。例え、ロボットだとしても、私は、彼女との時間の間にできたものは無じゃないと信じていた。コーネリア、花が見たいんだって?

 

 咲いてる花を見つけたら、そのディスクに記録してほしいんだ。
 ……もし見つけても、それを摘んではだめだよ。わかるでしょう?
 
 コーネリアのその言葉は、どこかコーネリア自身と重ねているような気がした。人知れず咲く花。コーネリアの摘んで欲しくないという言葉、それは……貴方だけ摘まれるのはずるい。そんな意味を持っていることを知っている。コーネリアは奇病を、一人きりにしたこの世界を恨んでいる。こんな世界でなかったら、きっと私とも会話はしてくれなかっただろう。コーネリアは、本当はプライドが高いのだ。優しくしていてくれても、本当は人になにか頼みたくない。例え相手が無機物だとしても。
 コーネリアの願いを叶えよう。必ずこの世界に咲く花を見つけよう。コンパクトディスクを胸に挿入する。すぐ帰るから、待っていてくれ。そう伝えるとコーネリアが寂しそうに微笑む。珍しい表情に、一瞬私は戸惑った。あんな顔見たことなかった。寂しそうな顔に対して私が起こすプログラムは、すぐ帰らないと、絶対に花を見つけないと。胸のコンパクトディ、スクがマワ、り、始めワタ、シは、崩れ落チテ、 世ヵイ  コ  リ ア

 

 ロボットのジョンが床で機能を停止した。少女は、這いずるようにジョンに近づき、ヘッドパーツにキスをする。
 寂しがり屋の少女は、一人で死ぬのには寂しいだけだった。この世界にたった一人の少女の愛しい心中が、死が。この世界を終わらせる。

 

 

妖怪三題噺「ロボット CD 虫」

https://twitter.com/3dai_yokai