kurayami.

暗黒という闇の淵から

博士は煮っ転がし

 私は純白のドレスを身に纏った、お嫁さん。結婚式を終えたのに未だに脱ぐことができないの。だって、いつまでもお嫁さんであることを忘れたくないから。
 私の夫は、解剖学の博士。私はその助手だった。研究熱心だったあの人に一目惚れして、私の猛烈なアタックが始まったの。もちろん、研究を邪魔しないようにね? ああでも、あの人、私が落としてからは研究よりも、私にお熱だったの。それも可愛かったけどね。ずーっと大好き、今も大好き。
 夫はね、そのうち研究以外のことも話してくれるようになったの。子供の時の思い出、好きな季節、よく読む小説、好きな食べ物。おばあちゃんが作る、里芋の煮っ転がしが大好きで、私に作るようにねだってたの。滅多にそんな風に甘えないのに。だから私は言ったの。「結婚してくれたら毎日作ってあげてもいいよ」って。ちょっとした駆け引き、私はあの人のことが欲しかった。
 でも、本当は、里芋の煮っ転がしなんて、わからない。里芋だって食べたことなかったの、山芋と違うの? わからない。だからまず里芋について調べたの。里芋はぬるぬるしてる、ふうん、人間の断面図と一緒ね。

 

 ある日ね、あの人とけんかしちゃったの。あの人が悪いのよ、口を開けば「お前といつそんな関係になった!」って。なんでかな、なんでそんなこと言うのかわからないの。だから思わず、近くにあったメスで、刺しちゃったの。それは、私は悪かったかもしれない。

 

 死んじゃったけど、解剖学において死体なのは大したことはじゃない。むしろ、口を開かなくて良かったかもしれない。結婚もしてくれる。私は幸せだった。それはとても……

 結婚してくれたから、約束通り煮っ転がしを作ったの。でも里芋がわからないから、あの人の煮っ転がしを作ってあげたの。私も嬉しい。貴方も、嬉しいよね? 煮っ転がしになれて。そう、それなら良かった!

 

妖怪三題噺から「ドレス 里芋 博士」

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