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kurayami.

暗黒という闇の淵から

クイズゲート

  木枯らしの吹く寒い十二月。男は部屋に引き篭もって、インターネットで動画を見ている。動画は、人気アイドルグループ「ハッピード・ラッグ」の看板番組。男はその中でもセンターの隣にいる「掛川聖良」を推している。清純派にはない妖艶で蠱惑的なキャラクターに、男は惹かれている。
 いつものように掛川聖良のまとめ動画を見ていると、先週分の動画である告知があった。
「全国のコンビニエンスストアで、ブロマイド付きマグカップを販売するから、急いで買いに行くといいわ」
 ディスプレイの中で掛川聖良が腕を組んで告知をしている。このさばさばした性格も、掛川聖良の売りだった。
 男は時計を見る、夜の一時過ぎ。ハッピード・ラッグは国民的アイドルだ。下手したらもう売り切れているかもしれない。男は、外の寒さと掛川聖良を天秤にかけ、その重い腰を上げコートを手に取った。
 コンビニまでの道は、田んぼに挟まれた暗い細い道を進んで行かなければならない。男は田んぼに落ちないように道の真ん中を歩いていると、道の真ん中、なにか大きな丸い影が見えた。
 それはなにか、大きな丸い輪。輪の中は真っ暗闇だった。
「貴方には、欲望がある」
 後ろから不意に声をかけられた。男は振り返る。
 そこにいた男は、ハットにスーツ、ステッキを持っていた。まるで、クイズ番組の司会者のように。
「な、なんだ、お前」
 男は司会者風の男に聞く。
「貴方は、掛川聖良とデートがしたい、次の欲望として掛川聖良の私物になりたい、またその次に掛川聖良の弟になりたい」
 それは、ファンにとって禁忌の願望。
 男は驚いた、推しのメンバーを当てるだけならまだしも、その禁忌的願望まで当てるとは、只者ではない。
「なんでそれを……」
「私はそれを叶えることができます」
 司会者風の男は淡々と、その言葉に続けて男に条件を提示をする。
「ただし、三問クイズに正解したら、ですが」
 男は少し考えた。言っている意味はわからないが、この司会者風の男はもしかしたら所謂“同士”なのかもしれない。それなら、悪い奴でもない、少し寂しいだけなのかもしれない、と。
「よくわからないけど、いいぞ。お前のクイズ乗ってやるよ」
「いいですね。それでは一問目です」
 どこからかクイズ番組特有のあの出題音が流れ、男が辺りを見渡した。
掛川聖良の、好きな食べ物は」
「こしあんを使ったあんぱんだ」
 正解音が田んぼに響く。男は順応した。
「二問目、掛川聖良のほくろは」
 男にとって難しい質問だった。
「……七個、だ」
 再び正解音。男は、ファンとしての範囲で知っている数を答えた。
「では、最後の問題です」
 男は身構える。
掛川聖良の、思想は?」
 男は、困惑した、そんなものは知らなかった。
「いや、ちょっと、それはわからないな……」
「残念です」
 司会者風の声に感情はない。
「二問目まで正解しましたね。では、貴方の二つ目の欲望を叶えましょう」
「二つ目の、欲望?」
 男の後ろ、輪が動き出す。男は振り返ることもできず。その大きな輪の中に入門した。


 何かが割れる音がした。
「ちょっと聖良、大丈夫?」
「ああ、ごめん……マグカップ、割れちゃった」
 ハッピード・ラッグの待合室の中、マグカップが粉々に割れている。

 

 

妖怪三題噺「アイドル マグカップ ゲート」

https://twitter.com/3dai_yokai

 

今回、青砥と「アイドル」のグループ名と人名だけ共有してから、同時スタートしました。何か繋がると思ってやったんですけど、思った以上です。マグカップ!

aotoh.hatenablog.com