読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

kurayami.

暗黒という闇の淵から

敵に塩


「……蝋燭なんて、普段使わないから、いまいちわからないんだよなあ」
 仄かに暗い埃っぽい廃墟、昼の白い光が差し込む部屋の、闇の方。数本の蝋燭に囲まれた中に、両腕を切断された男は、木造の椅子に座らされていた。
 その対面にいるフードを被った女が、男に答える。
「残り四本と、その半分の蝋燭。持って残り四時間半といったところだな」
 一つだけ火の灯った太い蝋燭が、半分まで溶けている。


 今から三十二時間前のこと。第十三区にあるアジア国反乱組織である第二支部に、一人の女が機関銃を持って入り込んだ。突然の奇襲に、支部の人間は容赦なく皆殺しにされた、支部長の男を、残して。
 女は、致命傷を負い気絶した男の腱を切り、引きずり、スラム街の奥にある廃墟に監禁した。男が目覚める前に男のことを縛り付け、女は男の腕を切断するために、男の背中に片足をかける。鋸を、上下に動かす。痛みで目が覚めた男が、喚き動き、吐瀉物を吐き散らす。錆びた鋸だったため、女は男の両腕を切断するのに苦労をした。
 意識を朦朧とさせる男を、椅子に座らせ、縄とベルトでくくりつける。どくどくと流れる血。男が口から泡を出しながら、うわ言を呟いている。女は塩を手に取り、鮮やかな傷口に塗る。男が声にならない呻き声を出す。血の流れが少し、収まった。
「しっかりしろ、わかるか? お前は、自分が誰か、わかるか?」
 女は、男の顔を抑え聞く。
 焦点の合わない目をした男が、荒い息を漏らしながら、答える。
「……第二、支部の……」
「ああ、それがわかれば、良い」
 女は、それに付け加えて言う。
「私は、お前に、お前らに家族を殺された被害者だ。復讐ってやつだよ。これから蝋燭に火を灯す。全ての蝋燭を消費したとき、お前を、殺す」
 女はそう言って、一本の蝋燭に火をつけた。男を、恐怖させるために。


「なあ、お前。怖くないのか? 目の前に寿命が見えて、刻々と失っているんだぞ?」
 意外にも、場に慣れた男は呑気なものだった。
「いやだってさ、腕、切られてるし、正直そういうスリル、麻痺しててわからないんだよね」
 女は呆れ、困る。一生に一度の復讐を、何か間違えたと嘆く。
「まあ、こうやって誰かに命を管理されるのも悪くないね、人任せの命というものを忘れていたよ」
 男にとって、傷の水分を抜くために傷に塩を塗る行為は抱擁で、消えた蝋燭の火を付け直すのはなんだか面倒を見られているみたいで、居心地が良い。
「なら今すぐ殺してやろうか」
「それだと、約束が違うだろう? けど、管理してるのは君だし、いいよ、好きにして」
 女は黙る。何も約束を守る必要はなかったが、手間のかかった手順と、残り四時間ということもあり、男に“付き合う”という形になる。
 奇妙な関係が終わるまで、残り四時間。

 

 

妖怪三題噺「機関銃、蝋燭、塩」

https://twitter.com/3dai_yokai