kurayami.

暗黒という闇の淵から

恋の行政革命

 「告白をして、ふられてしまったんだ」

 

 「こっぴどいふられ方だった、なんだっけ『お前みたいな変人とは付き合えないよ』なんて、言われたと思う。酷い話だよ、ねえ? そんなに否定しなくたっていいじゃない、ねえ」

 

 「確かに私の好きなことは、他の人があまり好まない」

 

 「例えば……私、火で二の腕を炙るのが好きなの。なんでだと思う? 牛タンになりたくて炙っているの。だって牛タンはみんなとちゅーが出来て羨ましいから、そんな存在になりたくてね。あと、蟻を殺して食べるのが好きなの。甘い蜜を出して、コクがあるんだ、知らない? おいしいよ。……それを他の人に話せば気味悪がられるの、だから、滅多なことがないと言えないなあ。ああ、今話してる君は別だよ。君は私の大切な友達だからね。ああ、そう、君のことも話したら言われてしまったな。お母さんも言うんだよ……『その箱を早く捨てなさい』って。確かに君は腐った蜜柑の集合かもしれないけど、そこには私にしか見出せない意思が存在するのにね。君を、押入れに隠して生活するのは、なかなか大変なんだ」

 

 「なんだっけ、ああ、そう、ふられた話と、私の否定された話」

 

 「でもね、あの人、私と同じ“好きなこと”がひとつだけ、あったの」

 

 「私、大雨の日は必ず傘を差さずに全身で雨を浴びるの。逃げ場のない中で、容赦なく、全身を雨が打つの。無抵抗になってみれば、全てを、許すことをできた」

 

 「あの人は、ほとんど同じ理由で、同じことをしていたんだ。ああ、同じことを考える人がいるんだって」

 

 「それを知ってから、学校でよく話すようになった。そう、些細な恋の入り口に過ぎなかったよ。だんだん、あの人のことが好きになった。なんか、少しずれたリズムがあの人にあって、それが癖になって、どんどん惹かれた」

 

 「私のことも話すようになったよ。どんな顔してたか忘れちゃったけど、全部聞いてくれてた。そんなところも、好き」

 

 「けど、振られちゃった。私、否定されちゃったよ」


―――

 

 昼食と休み時間が終わった、五限の授業。ゆっくりと流れる時間の中を、歴史担当の教師が少し早口で授業を進める。
「一八七一年、内務卿であった大久保利通によって、行われた行政革命がある。松田、言ってみろ、松田、起きてるか」
 名指しを受けた生徒は、ワンテンポ遅れて立ち上がる。
「んあ……えっと、廃藩チカン……でしたっけ」
「廃藩、置県、な。松田、チカンじゃなくて置県だから忘れるなよ」
 生徒に笑われる中、松田と呼ばれる生徒が恥ずかしそうに着席をした。
「廃藩置県、これは大名が支配して、二五六年間存在していた藩を廃止し、代わりに行政組織である府県に設置する、というものだ」
 教師は、早口と同じテンポで、黒板に書き込み、生徒たちが書き終わるのを待つ。
「先生、これって大名たちはどうなったんですか」
 伸びた声で生徒が一人聞いた。
「ふむ、普通は気にするところだよな、うんうん。その質問は滅多にされないんだよな、なんでだろうな。まあ、取り潰し……領地などを没収されたか、そのまま良いとこの貴族になった。とかだ」
 授業を聞いていた一人の生徒が、それをなんとなく、自身と重ねた。大名も私も否定されてしまった。これはちょっとした廃藩置県なのかもしれない。私は革命を起こすべきなのかもしれない。と少し考える。
 それなら、家に帰り次第、押入れの君を庭に埋めないといけないなあ……なんて考えて、考えて、授業の時間は進んでいく。

 

 

妖怪三題噺「雨 廃藩置県 女子高生」

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もう一つの「雨 廃藩置県 女子高生」

日記 — 12月19日 016年