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kurayami.

暗黒という闇の淵から

窓際に見る希望


 私がいつも、繰り返し、見ている夢。
 夢の中の私は、私なのか、誰なのかわからない。男か、女かもわからない。手足の生えた、凹凸のない、人形のような身体。不恰好だけど、でも自身が誰であるだとか、男であるだとか女であるだとか、姿形、そんなアイデンティティは、私には必要がないような気もした。どうせ、だとか、自分なんて、そんな気持ちが、いつも人形の私に渦巻いていた。
 その世界は、天井はあるけど、どこまでも、どこまでも高くて、見えない。部屋の全貌を見ようにも、靄がかかって見ることも叶わない。果てしなく、広い、一つの部屋、それがその世界。人形の私がいつも歩くのは、その部屋の、私が窓際と呼んでいる壁際。
 窓際には、いくつもの窓が、雑多に並んでいる。それは見えない天井にまで、先の見えない窓際の最果てまで、続いている。窓は開かないけど、窓の向こうの景色を見ることができた。どの窓も、部屋に微かな光を差していた。
 窓の向こう側では、様々な物語が紡がれていた。真っ赤なボールが飛ぶ物語。師匠と弟子の物語。後輩の不安な恋慕の物語。世界に一人きりの少女の心中物語。めざめの国の廃棄物語。博士と助手の勘違い物語。命がけのクイズ物語……どれも、これも、私にはない個性的な物語。私はそれを、羨ましいと思い、その窓の暖かく微かな光を、希望と呼ぶ。
 ふと、ある窓を覗くと、女が男に殺されているの見た。殺された女は、男に、丁寧に杉林の中に埋められている。少し戸惑いながらも、羨ましいという感情は変わらない。その殺人に愛を見出したのか、それとも丁寧に扱われていることに、羨ましいと思ったのか。その窓は、そんな暗黒の意思とは裏腹に、部屋に光を差す。ここにも希望があるというのか、なら希望とはなんなのか、と私は歩み続ける。答えはいつも、わからないまま。
 私のような人間にも、希望は来るのだろうか。私のような……私のような。後ろを振り返れば、数多の窓から、様々な光が差している。
 やっぱり、少し羨ましい。
 少しだけ、少しだけ私にもそんな物語を、と望むとき。窓際に両開きの窓が現れる。その窓の向こう側の光は微かだけど、そこには私の物語があると、確信できて、喜ぶ。
 その両開きの窓に喜んだとき、決まって部屋の奥、赤い光と、煙が充満し始める。火事。私はいつも決まって、ほんの少し悩むふりをして、両開きの窓を背に、火事の元へと向かうんだ。なんでだろうね、数々の物語を守りたいからかもしれないし、私は、私自身の物語を作りたいのかもしれない。
 いつも、いつも、煙の中で意識を失って、夢から覚めてしまう。

 

妖怪三題噺「微光 煙 フランス窓」

https://twitter.com/3dai_yokai