kurayami.

暗黒という闇の淵から

リピート

 身体に篭った熱で、目が覚めた。近くには、ストーブがあって、篭った熱は、これのせいかとわかった。なんでこんな近くにあるんだろう、暑くてしょうがない。しかも、椅子に座って寝ていたせいか、背中が痛い。それに、なんだか、嫌な夢、気分の悪くなる夢を、見ていたと思う。どんな物語がそこにあったかは忘れてしまった。思うように動けなくて、もがくような夢だったのは覚えている。

 電気もついていない部屋の中、ストーブの、暖かいオレンジ色が、足元を照らしている。

 気づけば、耳元で音楽が流れていた。ああ、イヤホンをつけたまま寝ていたんだと、思い出す。にしても懐かしい曲だ、だいぶ昔にハマったバンドというか、そうだ、父さんが好きだって言うから、聴き始めたんだっけ。父さんと仲良くなりたいと思って、聴いてて、懐かしいなあ。あれって、いつ頃だっけ。


 不意に、目の前にあったブラウン管テレビが画面を輝かせた。


 テレビに映ったのは、昔遊んだ、公園や、秘密基地。ああ、そうだ、聴いていたのは、小学生のときか。テレビは、一瞬、あの頃の家族を映した。妹も、俺も、まだ小さくて、家族は全員揃って、食卓を囲んでいる。
 テレビが消え、イヤホンから流れる曲が、次の曲へと変わる。四人組のロックバンド。これを知ったのは、えっと、そうだ。中学生のときだ。同級生に勧められて、聴いたんだ。夢とか、希望とか、愛だとか、一貫して物語がわかりやすい曲で、というかなにより、好きな子が聴いてた影響が多いのかもしれない。
 ブラウン管テレビが、映し出す。辞めてしまった運動部。喧嘩して壊れた眼鏡。遠く、坂道の多かった通学路。携帯の、メール履歴。あまり、記憶に残るものはなかった気もするけど、こう見ると、悪い三年間じゃ、なかったのかもしれない。
 またテレビが消えた。気づけば、ストーブが、少し離れている。ちょうど良い距離感だ、暖かい。
 イヤホンは、次に高校のときに聴いていたバンドや、アーティストを流す。この頃は、そうだ、友人の前野に勧められた曲ばっか聴いていた。動画サイト出身のバンドやアーティスト。中には、俺が見つけたバンドもあって、ライブに通ったりしたっけ。
 高校の近くにあるコンビニ、部室、教室や、自販機。友人の前野とよく座り込んで話した、川沿い。それは、少し遠くて、少し鮮明な記憶だった。最後、誰もいない台所が映し出され、またテレビが消えた。
 テレビとイヤホンは次々と、記憶を、過去を流す。初めて好きになった洋楽のバンド。長く勤めたバイト先。恋人がお気に入りだった唄。通い始めた都心。カフェで買った誰も知らないであろうサウンドトラック。勤め先。駅のホーム。
 次は何が流れるんだと、少し期待して、最後、大好きな、あの動画サイト出身のバンドの曲と、テレビが赤い砂嵐を流して、全てが終わった。


 無音と、暗闇と寒冷の中、遥か彼方にあるストーブの明かりが、消える。


 俺は、椅子から動けないまま、再び眠りについた。

 

 

妖怪三題噺「ストーブ 椅子 イヤホン」

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