kurayami.

暗黒という闇の淵から

許された恋

『……えーただいまお送りした曲はベートーヴェンさんで、ピアノソナタ、第十四番でした。ハイッ、FMスリーナイン、アンテメリーディエムボイスは、今夜も僕、DJ千代恋と!』
『私、暗闇ちゃんでお送りしていくね』
『あれっ、暗闇ちゃん髪切った?』
『切ってないよ?』
『…………』
『…………』
『えーでは、そういうことでね。今日もお便りがいくつか届いております』
『わあい』
『ラジオネーム、睡眠キャンデイさんからのお便りです』
『うんうん』
『えー、千代恋さん、暗闇ちゃんさんこんばんは。こんばんは! いつもこの時間楽しみにしています。わっありがとうございます』
『ありがとう』
『実はこの前、娘の血液型を調べに病院に行った結果。うんうん。血液型がAB型でした。おー』
『一番珍しいやつだね』
『でも、私の血液型はA。夫の血液型は……Oなんです……どうしたらいいでしょう。教えてください千代恋さん、暗闇ちゃん。とのことですが、えっと』
『うーん、なるほど』
『つまり?』
『O型の親からはAB型は産まれないんだよ、千代恋』
『…………』
『ちなみに、純粋なAとBからOが産まれることもないよ、知ってた?』
『……これ、どうしよっか』
『うーん、隠し通した方がいいと思うけどなあ』
『うーん』
 不自然なタイミングで、トーク進行から曲紹介へと移った。
「いやー今の問題は、お便り選んだスタッフが悪いでしょ」
 日本酒を飲みながら、姉がそう答えた。お酒を飲む姉は、かっこいい。
「つまり?」
 僕はラジオの進行役と同じ台詞で、姉に聞く。
「生まれてきた子が旦那さんの子じゃなかった、ってこと」
「えっ、なんで!」
 僕は驚愕した、そんなことがあっていいのかと。
「なんでって、私の口からそんなこと説明したくないよ」
 姉はぐいっと、日本酒を飲んでいる。
「よくわからないけど、お姉ちゃんはなんでも知ってるね」
「そりゃ、お前より長く生きてるからね」
 僕は、こうやってなんでも知っていて、お酒を片手に、片膝を立てて僕の質問に答えてくれる姉が好きだった。尊敬して、憧れていて、同じ血が流れているのが嬉しかった。

 あれから二年後、ある晩、俺の家は血に染まった。家族は、俺を残して全員殺されてしまった。母は胸を何回か刺され、父は顔面から腹まで滅多刺しだった。姉だけ、背中から深く一回刺されただけだった。黒縁眼鏡をかけたその男は、なぜか俺を殺さなかったんだ。なんでだろうな。
 数年経って、俺は医学生になり、今日、あの日瓶に詰めた三本分の血を、調べることにした。調べて、家族がいたことに実感が欲しくて。
 結果は、AOとBBと……O。
 悲劇。あの頃芽生えていた恋心は、叶うもの、だったんだ。

 

妖怪三題噺「ラジオ 日本酒 AB型」

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