家に帰った男は、電気を付け、台所に入る。スーパーで買ってきたものを、テーブルに並べた。卵、玉ねぎ、牛ひき肉、パン粉。男は冷蔵庫を開け、ケチャップ、ウースターソース、牛乳の確認をする。今日の晩御飯は、ハンバーグだった。
必要なものが揃っていると、男は安堵した。調理を始めようと冷蔵庫を閉めようとしたとき、その瓶に、気づく。
瓶の中は、空っぽだ。
地下へと続く、木製の冷たい扉を開け、決して高くはない段差を、男はゆっくりと階段を降りていく。地下特有の、暗い温度が、男の手に触れ、電気を付けた。
その地下室には、本棚が、距離の秩序を保って並んでいた。男は本棚の隙間を歩きながら、横目に文庫本が詰まっているのを見る。
その背表紙のタイトルは、どれもこれも、男が何度も読んだ本だ。救済とは程遠い話が多かった。歩きながら反対側を見る。
『奥底の心理テスト』
『T大学臨床医学』
『世界の拷問処刑』
『採血のススメ』
専門書が並んでいる。ふと、一冊本が、飛び出ていたのを見つけ、男は直す。また、その隣に『植え付けるは拷問 - kurayami.』という小説があったのを見つけた男は、後ろの本棚に閉まった。
奥の壁際、棚。そこには液体の入った瓶が、等間隔に並んでいる。男は、一つ、一つ、手に取って、それを確かめる。
『十二月十一日 女 刺』
『十二月十九日 女 絞』
『十二月二十二日 男 溺』
男が殺した日付と、それの性別、殺し方が、その瓶にサインペンで書かれていた。瓶の中で、真っ赤な液体が蛍光灯の光に当てられ、とろりと揺れている。
『十二月四日 女 撲』
中で液体が、半固形物と化し、分離している。男はこれはもう駄目だと、作業台の隅に置いた。
男は、今日は鮮度の高いものの、気分だった。『一月十四日 女 薬』と『一月二十三日 男 溺』の二つで迷い、悩む。男と女かで言えば、今日は女の気分だが、鮮度がイマイチと、男は悩んだ。
そういえばと、男は会社で仕事を褒められたことを思い出した。男は、自身にご褒美が必要だと考え、納得し、作業台へと目を移す。
手足を拘束された、衰弱しきった女が、男の視線に気づき、震える。怯える元気は、まだあるようだった。男は糸鋸を使い、女の腕を切断していく、口枷の奥から、女の呻り声。雪平鍋に溜まっていく生き血。骨を通過し、切断しきった腕を絞り、血を出し切る。男は女を治療し、再び、地下室を暗闇に明け渡した。
フライパンに油を敷き、先ほどこねたハンバーグを乗せる。油の弾ける音に、取り立ての生き血をかけ、フタをする。中で、血と油の弾ける音がする。食前の運動をしたこともあって、男はお腹を空かしていた。フライパンの隣、鍋の中では、煮込んだ血液のスープが煮立っている。
男はおたまでそれを掬い口にする。それはとても、甘美な味わいだった。
妖怪三題噺「瓶 音 ペン」