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kurayami.

暗黒という闇の淵から

巫女の聖剣

 私の気持ちは、水流のように、永遠に流れ続けているはずでした。

「ねえねえ」
 神社の掃き掃除をしていたとき、彼は私の白い裾を引っ張った。
「あら、どうしました?」
「かみさまって、どこにいるの?」
 純粋で無邪気な質問に、私はクスっと笑ってしまう。
「神様はね、お空にいるんですよ」
「お空に?」
 彼は拝殿を不思議そうに見る。
「あそこはね、うーん、電話……神様と電話ができる場所ですよ」
「なるほどね!」
 それ以来、彼は毎週遊びに来るようになった。
「巫女さん巫女さん! こんにちは!」
「はい、こんにちは」
 葉が焦げ、何度も繰り返し落ちても、彼は来てくれた。
「この前さ、教えてくれた王様の話、もっと知りたいな」
 初めて会った頃に比べて、随分と身長が伸びていた。
「いいですよ」
「やったっ」
 彼は、私の話にいつも、興味を持ってくれた。私はそれがとても嬉しくて、この掃き掃除の時間がいつも楽しみだった。
「あのさあのさ、やっぱり王様が抜いた剣って強かったの?」
「ううん。その剣はカリバーンって言うんですけど、強いのはその後にアーサー王が手に入れた聖剣エクスカリバー、ですね」
「強そう……」
「その聖剣はどんなものでも一刀両断したと、言われてます」
 彼が、それを聞いて目を輝かせた。
「しかし、なによりの魅力は、その聖剣の鞘にありました」
「鞘?」
「あの、剣を仕舞う筒ですよ」
 私が剣を仕舞う仕草をして、彼はやっとわかってくれた。
「あれサヤって言うんだね。それでそれで?」
「その鞘を持つもには、不老不死になると言われていたのです。不老不死、わかりますか?」
「ううん……よく聞くけど、あまりピンと来ないかも」
 彼はたぶん、もうすぐで中学生になる年齢だったはず。彼の無知に、少しだけ私は不安になる。
「歳を取らない、死なない」
「無敵ってこと?」
「そう、無敵」
 無敵はわかるのかと、私は納得する。
「でも巫女さんも、ふろうふし、だよね?」
「ん、どうしてですか?」
「だって、ずっと変わってないよ。死んでないし」
 私は笑ってしまった。もしそうだったら、どんなに良かったかな。
「ふふ、そうですね、私はエクスカリバーを持ってるんですよ、実は」
「えー見せてよ!」
「大人になったら見せてあげますよ」
 本当に、不老不死なら良かったのに。私と彼とでは歳の差があって、それはきっと、私の方、早く老けていく。私だけが永遠にこのままなら、いつか彼が追いつくのに。

 水流のように、変わらないはずの想いは、たびたび凍っていく。

「ねえ、聞いてる?」
「あっ、ぼーっとしてました」
 二着目の制服を着るようになった彼は、私の背を越していた。
「ぼーっとしすぎ。でさ、その先生が言うんだ、歴史を知らない奴はクズだって、ひどくない?」
「ちゃんと勉強はしてるんですか?」
「いや、まあ、点数悪かったから言われたんだけどさ……」
「それがいけないんですよ」
 彼は、毎週から、毎月へと、変わっていた。
「誰かさんが話してくれる昔話、全然授業に出ないし」
「あら、なら、勉強教えましょうか?」
「うわあ、勉強は嫌だなあ」
 私は、不安だった。こうして、どんどん、離れていくんじゃないかって。
 だから、私が、動くしかないと思った。
「……あの、明日って空いてますか?」
「ん、空いてるよ。あれ、巫女さんからのお誘いなんて初めてじゃない?」
「たまには、です。良いものを見せてあげるので、明日の五時過ぎ、神社裏に来てください」
 それを聞いて、彼はなんだか照れくさそうだった。高校生相手にこんなこと言うのはずるいと思ったけど、仕方がない。
 その夜は眠れなかった。


 その日の夕方、私は高鳴る胸を押さえられずに、神社の裏で待った。彼は私を受け入れてくれるだろうか。もし失敗したらどうしよう、だなんて考えて、年甲斐になく、乙女になっていた。
 彼が、制服のまま現れた。すぐに、私が持っているものを、訪ねる。
「わ、それどうしたの」
「昔話した、聖剣ですよ」
 鞘に収められた、日本刀。
 私はそれを片手に、彼へと近づき、抱きつく。動揺した彼が硬くなった、こういうことには、慣れてないみたい。
「ずっと、こうしたかったんです」
「あ、えっ、えっと……」
 言葉に詰まる彼が可愛い。
「ずっと、こうしたくて……でも私は、どんどん老けていくじゃないですか……」
 だから、だから私は、彼の背中から刀を刺した。
 彼の中を通った刃が、私の中へ入ってきて、それがとても、熱くて。
 言葉にできない嗚咽を口から出す彼。私は、私と彼が絶命するように、刀をぐりぐりと動かす。
「こうすれば、私たちは永遠に歳を、取らないんですよ。だから、その、えっと」
 好きです。
 私は、彼に届くかはわからない、告白。熱い熱い聖剣が、きっと、私の氷を溶かしてくれた。

 

 

妖怪三題噺「氷 巫女 エクスカリバー

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