「小松菜、たけのこにょっきっきしようぜ」
昼食と五限の間、余韻の時間。私はクラスの男子、小林に声をかけられた。
「いやだよ……そんな人数集まってないじゃん」
小松菜というのは、私、小松菜奈のあだ名で、なぜか苗字より長い、そのあだ名がみんなに採用されている。
たけのこにょっきっき。順に、たけのこを出すゲーム。
例えば、今私の目の前には、男子二人、小林と吉田くん。女子の靜香ちゃんがいる。
「たけのこたけのこにょっきっき」
全員が開始の合言葉を言う。
「いちにょっき!」
小林が出る。
「ににょっき」
「ににょっき!」
吉田くんと、靜香ちゃんが被った。この場合、この二人が負け。
「もう一回やろうぜ」
珍しく吉田くんが乗り気だった。私も、まだにょっきしてないからしたい。
「たけのこたけのこ、にょっきっき」
合言葉の後、しばらくの、沈黙。
「いちにょっき」
吉田くん。
「ににょっき!」
靜香ちゃん。
「さんにょっきー!」
すかさず小林。
「あっ、あっ、よんにょっき……」
最後に私。珍しい負け方をした。
「ええ、小松菜弱すぎない? 雑魚にょっきじゃないですかあ?」
煽る小林。なんだか微妙に悔しい。
「小松菜さん、珍しい負け方だったね」
吉田くんまで……
授業開始のチャイムが鳴る。私の昼休みは、たけのこにょっきっきで終わってしまった。
家に帰り、一日お世話になったブレザーの制服を、ハンガーにかけた。この制服とも、もう二年の付き合いだと思うと感慨深く、感慨深いだけだった。
声も出さず、思いっきりベッドへ飛び込んだ。別に疲れたわけじゃない、頭のなかにある、たくさんたくさんの思考を静めたいだけだ。しかし、それも結局、静まらない。
吉田くん。
今日の帰りも、私は体育館を覗いてきた。相変わらず赤い練習着かっこよかったし、サイズが合ってないのも、補欠練習ばっかさせられているのも、可愛かった。それよりも、今日は喋ってしまった。小松菜さんだって、ふふ、さんって、可愛いなあ。そういえば今日、現国の教科書忘れてたな……あと三列近かったら貸せたんだけど、誰にも言えず困ってて、可哀想だった。家も、お父さんがリストラされてたし、心配だ。
彼が愛おしくて、欲しくてしょうがなかった。どうしたら、彼を買えるのだろう。私は携帯で「人 値段」で検索をかける。いくつかサイトを見てみたけど、どれも楕円の形をした数字が、たくさん値段に付いている。人って、そんなに高いんだ。じゃあ吉田くんはきっと、もっと高いんだろうなあ。
買ったら、なにしてもいいんだよね。毎日ご飯あげるんだ。それから、お風呂も入れてあげる。吉田くんは血色もいいから、きっと血の色も綺麗だ、綺麗な真っ赤なんだろうなあ。
考えていたら恥ずかしくなってきて、枕に、顔を埋めて静めようとして、結局静めることなんかできず。ただ、吉田くんの値段ばかりを考えるのだった。
妖怪三題噺「小松菜 赤 楕円」