kurayami.

暗黒という闇の淵から

死食鬼の夢幻、現実入門


「君に、夜明けなんて一生来ないよ」

 半月が浮かんだ丑三つ時。僕は、綺麗な金髪の女の子に、斧を振り下ろされた。
 ああ、もっと遊んでおけば良かったな、なんてのが、僕が生きていたときの、最後の記憶。


「おはよう」
 目覚めたのは、硬い土の上だった。少しぼーっとして、辺りを見渡す。
「寝惚けてるの?」
 金髪の女の子の顔見て、振り下ろされる斧の映像が頭に浮かんだ。振り下ろされたであろうお腹を触ると、血で固まった服越しに、砕けた肉の柔らかさを感じる。
「あっ、まだ触らないほうがいいよ。一応縫ったけど、落ち着くまでそっとしときなね?」
 お腹に、痛みはなかった。
 いや、それよりもこれはなんだろう。この状況は、なんだろう。
 夜中、コンビニに出掛け、缶コーヒーと煙草と、明日の朝ご飯を買って、それで、コンビニの裏で煙草を吸ってたんだ。そこから……
「えっと、あー……」
 改めて周囲を見ると、少し広い草原だった。草原の先が少し途切れて見えることから、どこか高い丘の上なのかもしれない。そして、目の前には“綺麗な”女の子が一人。たぶん、同い年ぐらい。
 周囲の状況を一つ一つ確認できるのは、冷静というよりは、どうしたらいいのか、わからないからだ。僕は思ってる以上に混乱しているのかもしれない。
「えっと、いろいろと、なんで?」
「うーんじゃあ、まず自己紹介だね。私は、グールなの、女性じゃグーラなんて言うらしいね」
「グーラさん」
「名前みたいに言わないでよ、名前は琴世って言うの」
 琴世。どこかで聞いた名前だった。
「ん、で、なんで僕は襲われんですかね……」
 よくよく考えたら、痛みがないとは言え、襲われている。これが犯罪に巻き込まれてると今になって自覚した。しかし、まるで現実味がない。
「君、二十三歳だよね」
「そうですね」
「私もグールになったのが、二十三のときなの」
 いまいちよくわからなかった。なんだか、まるで夢にいるみたいだ。
 こっそり手の甲をつねってみたが、痛くない。夢なのかもしれない。
「あの、グールってなんですか」
「グールっていうのはね、変身ができる悪魔の一種なんだ。さらに言えば、歳を取らず、痛みを感じず、死体を主食にして、夜しか生きれない」
 痛みを感じない。僕はその言葉を聞いて、お腹を触った。まさか。
「ずっと一人で寂しかったから、だから、その、ごめんね?」
「意味がよくわからない」
「ほら、いつもコンビニに来てたじゃない、数年前から。君がね、同い年ぐらいになるのを私はずっと待ってたの」
 風に、綺麗な金髪が揺れる。
「夜は、一人じゃ寂しいでしょう」

 

 

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