君か。久しぶり……いや、ついさっき寝たばっかな気もするし、ううん……おはよう、かな。まあ良いか、ほら、立ってないで椅子に座りなよ。
何から話そうか。
ううん、じゃあまず、僕の話でもしよう。
……僕が誰だって? 誰って……君がよく知ってる人だよ。
あっけど、その想像した彼とは違うかもしれない。僕は彼の〈現実〉と〈虚構〉によって作れられたんだ。そもそも彼は君のことを「君」とは言わないだろう。君が「君と言われるより名前がいい」と言ったんじゃないか。
そして、虚構が混ざっているのは、君も。この文章を読む〈君〉だって、様々な〈君〉の読解が混ざり合って出来た存在。鏡を見てごらん、角度によって顔が変わるだなんてユニークだね。
ほら、彼は“ユニーク”だなんて言わないだろう? そういうこと。
で、僕の話だ。そうだなあ、そう、僕は九十五年の五月に、千葉県で産まれた。そこからなんだって顔をしたね、まあ、聞いて。
それで、親の都合で転々と転校したんだ。親の都合ってのは親の都合で、まあ虚構的に言ってしまえば、両親は健在だよ。きっと今も、トラックの運転手をやっている。転々の末、僕は東京の最果ての街に辿り着いた。
そう、或る君はそこで僕と出会ったね。
十歳から今に至るまで、僕はずっとこの最果ての街に住んでいる。たまに閉じ込められてる気もするけど、それすら悪くないと思えるよ。最果てだから夕焼けが綺麗なんだ。君も、そう思うだろう。
うん、だからだね、僕の思い出は夕焼け色が多いんだ。君と秘密基地を作ったあの頃も、君と写真部の暗室に篭っていた頃も、君と手ぶらで登校をしていた頃も。全部夕焼け色だ。
ここまでは、ほとんど彼とは同じだけど高等学校を卒業してから一変する。
彼が専門学校に入り失敗しているとき、僕は広い海を彷徨った。
青い時間線を指でなぞり、そこで君と仲良くなったんだよね。
彼が日記と呼ぶ世界の中でも生活もしたよ、それは明るく楽しい世界だった。なんて言ったって書けることを書いた世界だからね。そういえば、あの世界で君と出会ったんだ。
様々な広い海を泳いで、二年かな。瀕死の彼と入れ替わるように、僕は表役を貰った。広い海でのことを無駄にしないように、僕が僕であるために、文字を綴り続けた。文章の怪異と出会ってから、ずっと。
そうだ、そう、そこで君と出会ったんだ、こんにちは、こんばんは、おはよう。
文章の怪異から離れ、今度はまた、海を彷徨っているんだ。舟を漕ぐ少女、あの少女もまた、怪異らしいね。
ざっくり話してしまったけど、これが僕の話だ。なに、彼の虚構混じりの話なんてこんなものだよ。君がいなかったら話にならなかったね。
さて、どこかで聞いたような締めになってしまうけど、ぜひ、聞きたいんだ。
今度は君の話を聞かせてよ。
nina_three_word.
〈君〉から始まる物語。