元々、君の声には説得力があった。
「返事を催促するような人に、返事をしてはいけません」
四つ下の君は、愚痴を零した僕に、優しく敬語で諭す。
「ううん、でも長年の友達だしな」
その友達は、長い付き合いだった。しかし連絡ならともかく、世間話の返事ですら催促をしてくる、僕は少しだけ、うんざりしていた。
「いいんですよ、その程度で縁が切れるなら、その程度なんです」
その言葉は、まるで許すように、優しい。
「そうだね、そうかもしれない」
きっと、僕一人なら、連絡を切るだなんて選択肢はなかったと思う。実際連絡を切ってみて、肩の荷は降りたんだ。
君と一緒にいることで、助かったこと、救われたことは多かった。
それは君の優しい声色と口調はもちろん、その綺麗な容姿を含めて、説得力があったからだ。だから、素直にその言葉を信じ、受け入れていたんだと思う。
風邪を拗らせたとき、君は付きっきりで、僕の看病をしてくれた。朦朧とする意識の中、部屋の照明を背にした君がシルエットになって、揺れる長い髪の影が、どこか神秘的で、辛い体調による不安が、和らぐ。
「……神さま……いや、女神?」
「ふふ、馬鹿みたいなこと言ってないで、ゆっくり治してください」
君はそう言って、僕の目を小さな手で覆った。優しく落ち着いた暗闇、静かに眠りに落ちていく。
光も闇も纏う君は、何者なんだろう。
別に、普段から甘えてるつもりはなかった。むしろ歳上の僕が、普段は君から甘えられていたはずだ。僕は、決して弱いわけではなかった。
ただ、たまに見せる、甘く優しいその顔が、なによりも強く、癖になる。
「こうして私の元に帰ってくるだけで、偉いですよ、とっても」
疲れて帰った僕を、賞賛し。
「仕事が辛いなら、人間関係の少ない仕事を選びなおしましょう。大丈夫ですよ」
弱音を吐く僕に、選択を与え。
「あら、良い子ではないですね……少しの間、この部屋で正座しててください」
荒れた僕に対し、罰を渡し。
「あまり夜更かしをしてはいけません、私と一緒に寝ましょう」
僕が飢えた頃に、飴を投げる。
ルールもなにもない僕の日常は、君がいることで大きく変わって、秩序のある日常へとなったんだ。
ああ、僕にとって君は神さまで、正しさで、教えで、導きで、救い。
「まるで、宗教みたいだ」……だから、君無しじゃ生きれないよ。
ぽつりと呟いた僕の言葉に、優しく微笑む君。全部わかってるとでも言うように、その小さな手が、また、暗闇を齎した。
nina_three_word.
〈「宗教みたい」を含んだ台詞 〉