読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

kurayami.

暗黒という闇の淵から

夢のような現実、虚言

n3w 習作

 何回めかのアラームを、怠惰な空間から手を伸ばして止めた。二月も終盤に掛かったというのに、冬の寒さが未だに、僕らに抵抗し、効果を見せていた。
 寒さと布団の拘束から逃れ、階下のリビングに降りると、母が僕にお弁当を作り、父が煙草を吸いながら新聞を読んでいる。
「あら、おはよう。起きないから起こそうと思ったのに」
 僕の方を見ず、母がそう言った。僕は椅子を引き席に着く、父が、吸い途中だった煙草を消した。息子に対して受動喫煙を気にしているのだ、僕はもう高校生三年生になったと言うのに、いつまで気にするのだろうか。
 テレビの中では、ニュースキャスターが、感情を込めず読み上げている。

 朝の情報交換に賑やかな教室に入り、席に着く。
「おはよう、遠野」
 隣の席の、山崎さんが声を掛けてきた。席替えをしてからというもの、山崎さんと話す機会は増えたと思う。
「これさ、好きだって言ってなかった?」
 そう言って山崎さんが渡してきたのは、僕が密かに応援しているアイドルのシールだった。
「雑誌のオマケについてきたんだ、遠野が喜ぶと思って」
「おお、これは……ありがとう」
「ほら、いつもノート見せて貰ったりしてるしさ」
「そんなの気にしなくていいのに」
 鐘が鳴り、しばらくして先生が入る。朝のホームルームが始まった。

「遠野、この調子で頑張れよ。期待してるからな」
 二限の日本史の授業が終わったとき、廊下で先生がそう微笑み、僕の肩に手を置いた。
「うわ、遠野はやっぱ頭良いなあ。羨ましいぜ」
 五限の数Bの授業が終わったとき、クラスメイトの太田が僕にそう話しかけた。
「先輩っコンビニ行くんですよね? お供してもいいですか?」
 昼休みになり外へ出たとき、後輩の竹田が駆け寄ってきた。
 人の数には、恵まれていた。
 話す相手には、困っていなかった。

 晩飯を済ませ、風呂を上がり携帯を確認すると、和美からメッセージ通知が来ていた。
『遠野くん、大好きだよ。今日は先に寝るね、おやすみなさい』
 僕は、その通知を開かずに、携帯を枕の横に投げた。溜息が出る。
 みんなもっと、上手に嘘をついてくれ。
 親も、先生も、クラスメイトも、彼女も。本心にないことばかりを行動する。正直な気持ちを言えばいいのに、それで僕と貴方の関係は変わることもないし、欲しい蜜だって与えるのに。
 嘘が無ければ、この現実が成り立たないと思っている。それは、本当にそうなのか。
 起こそうとした、なんて思ってもいないことは言わなければいい。煙草だって吸いたいときに吸えばいい。ノートが見せて欲しいなら正直にそう言えばいい。思ってもいない。期待もしていないだろ、下手なお世辞はいらない、先輩と仲良くする必要だってないんだ。
 好きじゃないなら、好きって言わなくていい。
 虚しい、だけじゃないか。
 僕には嘘にしか見えない。

 まだ冬の寒さだけ残る、現実の夜。僕は、布団の中で眠りについた。

 

nina_three_word.

〈真偽〉