脳は、右と左で役割が違うらしい。
左脳は言葉を理解と思考の役割を持ち、右脳は、五感の役割を持つという。
「あれ、和春くん……右目の方が少し大きい?」
俺の顔を覗き込んで、弘子がそう言った。
「ああ、そうなんだよね。気づく人少ないのに、よく気づいたなあ」
弘子は、付き合い始めて一ヶ月の、俺の彼女だ。職場から近いということもあり、帰り道に俺の家で夕飯を食べてから帰っていく。
「左右非対称の顔なんて珍しい……って思ったけど、ほら、私とお揃いだ」
弘子が、左目の下にある涙黒子を俺に見せてきた。
「なんでもお揃いにしたがるよな、お前」
「へへ、お揃いが増えると嬉しいじゃない。にしても、納得。いつも見るたびに、横顔の印象が違って見えてたからさ」
「そんなこと思ってたんだ」
「思ってたよ。和春くんが思ってる以上に、私は見てるんだから」
その言葉を聞いて俺は頭を掻いた。確かに弘子は、俺のことをよく見ている。前に、左に重心が下がっていると指摘されたこともあった。
「あまり見るなって」
「なんでよ」
「恥ずかしいからだよ」
「心にも思ってもいないこと言わないの」
そして、弘子は俺のことを理解し始めていた。少し欠けた、俺のことを。
「ええ、なんでわかるんだ。あーじゃあ、これは? 今日はうちに泊まっていけよ、ってのは?」
俺の言葉を聞いた弘子が、目を輝かせた。
「それは本心だ! もちろん、泊まっていくよ」
俺は、弘子が好きだ、愛している。物足りないものを埋めてくれると、信じている。
ふと気づけば、浴室の中、弘子がバラバラになっていた。また、やってしまったのか。
無意識での殺害は、これで何人目だろうか。もうそろそろ、足がつく頃だ。いや、いい加減捕まった方がいいのかもしれない。
弘子は、親しくなりすぎてしまったのだ。無意識での殺害は、決まってオレと親しくなった人を殺している。ああ、とても好きだっただけに、今回も哀しい。
こうした無意識の殺害の原因は、恐らく右脳のせいだった。
子供の頃、あまりにも物忘れが酷く、脳神経外科で診察を受けた時のことだ。医者に右脳の方が発達している、と言われた。その発達の差は大きく、それが物忘れに繋がっていたらしい。
そしてそれは、右脳の本能が原因だということに、最近になって気付いたんだ。右脳は、五感の役割を持つ脳、つまり、動物的脳だと言う。
本能が、右脳が、自身を深く知ろうとするものは危険だと勝手に判断して殺している。きっと、そうだ、そうに違いない。
ああ、また、隠さないといけないのか。今回も左腕だけが見つからない。いつも、左腕や左脚だけがないんだ。
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〈アシンメトリー〉