kurayami.

暗黒という闇の淵から

男子高校生二人

 放課後、俺と永友は、川沿いに座って並んでいた。
 丁度良い高校の帰り道の途中。誰も来ない茂みの奥。見ていて飽きない、永遠に動き続ける川の流れ。それらの条件は長話をするのに都合が良くて、俺らは放課後、ここによく集まっていた。
 ただ、今日は長話をしにきたわけじゃ、なかったけど。
「あーマジかー」
 永友が眼鏡越しに、遠くを見つめて呟いた。何回目のマジか、だっけそれ。
「なあーどうする?」
「知らんし」
 俺の言葉にそう返して、足元にあった石を永友が川に投げる。それも何回目、だっけ。
 川沿いに並ぶ俺らの後ろには、吉乃さんの死体が転がっていた。
「殺してしまったのは……ほんと、ごめんな」
 殺したのは、俺だ。
「いやーいいって」
 失恋したのは、永友だ。
 今日は、永友が勇気を出して近所のお姉さん、吉乃さんに告白をする日だった。
 この場所で俺は、永友の想いを何度も何度も聞いてきた。この場所で俺たちは、どうしたら恋愛は成功するかだなんて話して、盛り上がった。
 そして遂に今日、永友はこの場所で吉乃さんに想いを告げた。でも、吉乃さんの答えは「ごめんなさい」だった。
 見たことのない表情をする永友、シーサーみたいな顔してたと思う。
 俺は茂みの影から隠れて永友を応援してたんだけど、吉乃さんが何か言おうとして、俺はとっさに茂みから飛び出て、手に持った石で吉乃さんの頭を後ろから殴りつけて、何も喋らせないように何度も何度も何度も、顔面に石を振り下ろした。
 じゅぶじゅぶ音を、立てていた。
 日光が川の水面を照らし、川沿いは光に包まれている。なんだかこの時間は非現実的で、後ろに転がる死体も嘘みたいだった。
 しかし手には、川の水で落ちない血が、残っている。
「それ、落ちない? ウェッティいる?」
 永友がカバンからウェットティッシュを取り出して、俺に渡した。あるなら先に渡して欲しかった。
「自首……するかなあ」
「はあ? 別にお前は自首する必要ないだろう」
「いや、でも、どうする……」
「いいって、隠すの手伝うから」
 永友はよく口癖のように「いいって」と言う。永友が吉乃さんのことを教えてくれたとき、俺が「成就させようぜ」って言った時も、そう言っていた。
 本当に、いいのか?
「……まあ、なんだ。俺のためにだったわけだし、結果聞かなくて良い言葉だったろうしな。うん、いいんだ」
 俺の考えに答えるように言った永友が、眼鏡を中指で掛け直し、立ち上がった。
「よし、北と西。どっちがいい」
「えっ」
「どうせここにいても捕まるだろ」
「えっ、えええ、そこまでは考えてなかった……」
 俺も手が綺麗になり、立ち上がった。
「お前は、行動力だけだよな」
 呆れたように、永友が言った。
「……そういうお前は、考え過ぎで行動力ないじゃん」
 俺の言葉に、永友がニカっと笑う。俺もきっと、笑っていた。
 放課後の河原、茂みの中死体を一つ埋める。俺ら二人が、街から消えた。

 

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〈 放課後 〉