私の番号は、207番。
窓はあるけど、開かない。お手洗いはあるけど、仕切りがない。そんな生活を強いられて、もう幾つの夜を越えたんだろう。
「一万と二百番さん、おいで」
お姉さんに番号を呼ばれた子が、顔をあげた。あの子は入って以来、まともに顔を見たことがなかったけど、初めて見たその顔には恐怖が滲み出ていた。
決して、一万二百分の番号があるわけではない。その数字は、お姉さんの財布残高が由来らしい。ちなみに私は、お姉さんが昔住んでいたアパートの部屋番号が由来だって聞いた。
連れて行かれた子の、泣き叫ぶ声が隣の部屋から聞こえた。エンジンのかかる音がして、チェンソーの音が私たちの部屋にまで響く。今日のお姉さんの気分は、切断らしい。
攫われた私たちは番号を与えられ、ただ、死を待つだけの羊。
飼い主は、お姉さん。
攫われ、連れて来られる子は、みんな私と同じ十四歳ぐらいの女の子たち。
一万と二百番の子の、次の日。連れて行かれたのは19番の子。隣の部屋から「痛い」と訴える声が連呼されたことから、何回か刺されたんだと思う。
その次の日は、26番の子、割とよく話す方だった子だ。「行きたくない」と駄々をこねていた。私たちもその子も、そうやって反抗することが恐ろしい行為だって知ってるのに、どうして。隣の部屋から「やだ、怖い」と聞こえ、そして長い長い絶叫。「溶けちゃう、助けて」と最初は叫んでいた。そのうち声を出し続ける、何かになった。
次の日は、お姉さんは帰って来なかった。
朝になって、お姉さんは帰ってきた。基本的に笑っているお姉さんの目が、笑っていなかったことから、不機嫌なのがわかった。呼ばれたのは101番の子。その子は、へらっと笑っていた。抵抗もせず、恐怖に顔も滲ませない。ただただ、お姉さんに笑って見せた。それを見たお姉さんの目に、笑みが戻る。
短い叫び声が聞こえた。きっとすぐに死ねたのだろう。
私は、笑っていた子の気持ちがわかる。死による解放を望んでいたんだ。羨ましい、呼ばれる子たちが羨ましい。
私は、いつも後回しだった。
ある日、私と99番の子だけになった。
きっと、うまく女の子を仕入れられてないのだろう。この調子でいけば今日か明日には、死ぬことができる。
その日、連れていかれたのは99番の子だった。隣の部屋からは、微かに水面から泡が出るような音が聞こえた。
部屋には、私一人。ついに明日だ。
しばらく経って、お姉さんがコンビニ弁当を持って部屋に入り、あぐらをかいて弁当を食べ始めた。こんなことは、初めてだ。
死が近くなって、麻痺していたのか、私はお姉さんに話しかける。
「ついに明日ですよね」
お姉さんが驚いた顔をした。
「嫌われてると思ってた」
「いや、正直怖いです」
「そっか、そか、怖いか」
お姉さんは、お弁当のおかずを箸で選んで、ブロッコリーを食べる。
「いや、207番さんが明日とは限らないよ。今日、頑張って新しい子連れてくるからさ」
意外な、回答だった。
「……なんで、ですか。私はいつになったら」
「不自然だよね。んん、そうだねえ」
お姉さんは、残った最後のおかず、トマトを、箸で転がす。
「私、好きなものは最後に食べる派なんだ」
いつものように微笑みながら、お姉さんはそう言って、トマトを口に運んだ。
私は素直に、それに絶望することが、出来なくて、嫌になる。
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