kurayami.

暗黒という闇の淵から

回転木馬に見せられて

 オルゴールに似たような、心地よの良いゆったりとしたメロディーが流れている。鉄棒に腹を突き刺された馬が円を描いて並んで、メロディーに合わせてゆったりと、回っている。それは大きな遊園機械。
 私は、そのうちのメッキの剥がれたブラウンと灰色の鬣を持った馬に、横向きになって座っていた。外側に、私の見知った景色が流れている。
 透明度の高い水色の景色。それは懐かしい、吹奏楽部に打ち込んだ学生時代だ。ああ、毎日練習して、努力して、憧れの先輩を目指して。ただひたすらに進むその姿は、可愛らしい。遊園機械のゆったりとしたメロディーと回転に反して、外の景色はあっという間に過ぎていく。
 次に目に入ったのは、目に優しい黄緑色の景色。父と母と、兄と私。輝かしい太陽の下、レジャーシートを広げてピクニックをしている。無口な父の膝に私が甘え、母と兄が談笑をしている。母の作った、色彩豊かなサンドウィッチが目に見えた。美しい家族の一面。
 景色は次々と変わる。恥ずかしくなるような淡い桃色をした景色。幾多の恋模様が、散り散りになっている。ああ、そんな人たちもいた、今なら微笑むことができるような、チョコレイトのような思い出ばかり。成功と失敗の繰り返し。始まりと終わりの繰り返し。でも、一人だけ目に止まる、特別な人。
 水色、黄緑色、桃色とぐるぐる回って私を楽しませてくれるけど、見ているうちに少しずつ、色彩を濃くするように、事実が見えてくる。メロディーは壊れたカセットテープのよう、回転は不規則に動く。
 そもそも、いつから私は、この景色を見せられているのだろう。
 水色から青色へ、それは夜に誘うインディゴ色へ。青春の日々は卒業へと向かう中で、疲れ、何を目指してるのかわからず一人、潰れている私がそこにいた。青春が空気と色と化して、私を刺している。
 黄緑色から緑へ、それは迷子になるようなスカラベ色へ。団欒の幸せは家族の亀裂よって、終わっていく。もう私の周りには誰もいなくて、深い深い孤独な森とその色が、私を迷子にしている。
 桃色から赤へ、それは血液と地獄のようなエンジ色へ。恋愛に飾られた人生は、一人の男が狂わせる。ああ、どこにいるの。私の絶望は、貴方にしか理解できないのに。心臓が放出する血液と色が私を狂わせている。
 くるくる、くるくる。永遠に、パステルカラーが染みになって堕ちていく。流れる景色は止まらない。見たくない、こんな残酷な景色は。いい加減、閉園を。
 錆びていく遊園機械。叫び声に近いメロディー。
 終了の切り取り線は、探しても探しても、それは私の眼球と視界の境界線にしかない。回り回り混ざる景色から伸びる手は、私の両の手だ。両の目を潰し、潰れ迷子で狂った景色と、さよならをしてくれる。
 その頃になって、やっと回転が止まった。ゆらりと下に落ちていく。
 色の狭間、動かない私と想い出の回転木馬
 

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〈 メリーゴーランド 〉〈 切り取り線 〉