高校生たちの通学路の外れ、とある空き地。
そこにはまだ中学三年生になったばかりの少年少女二人と、一人分の死体が転がっていた。
その死体は男で、青年で、頭から血を流し、不自然に身体をくの字に折って倒れている。
すぐ側には、血が着いたレンガと、タロットカードの紙片が散らばって落ちていた。
「死体、初めて見た」
少年が純粋に〈初めて〉を見て、微かな感動をする。
「死体じゃなくて、遺体ね。そっちの方が優しい言い方らしいよ」
少女が少年を優しく注意した。
「でも、俺はこの人知らないし」
「私は知ってるもん。そして君も」
しゃがみこんだ少女は、死体を覗き込むようにして、そう言った。
「鎌谷先輩だよ。私たちの中学を卒業した、あの」
「え、あのボランティア部の? この人が鎌谷先輩? 初めて見たかも」
少年がまた、微かに感動をする。
「うん、あの」
「一晩にして、机の椅子についた滑り止めを全部外しちゃった鎌谷先輩なんだ」
「私たちにも影響したもんね。でも、あれはやり過ぎ。それに、安っぽいと思った」
「そうかなあ。俺ら男子からしたら面白かったけど。そんな面白い先輩が、なんで殺されたんだろう」
少年が上半身ごと、横に傾げた。
「だから、きっと、やり過ぎたの。この人は、そういう人だった」
「話したことあるんだ」
「学校で一度ナンパされたの」
「えっ、学校で?」
少年が今日一番の驚きを見せた。
「学校で、放課後。遊ぼう遊ぼうってしつこくて、断りながらの会話をね」
「やっぱやばいな鎌谷先輩。それで実際、どんな人だった?」
「うーん、菓子パンで例えるなら、コッペパン、コンビニに売ってるやつ」
わかりやすいように、菓子パンに例える少女。
「美味しいじゃん!」
「そう思うのは安いからだよ。安くてすぐにお腹が膨れる。言葉はどれも安っぽくて、でもそれを実現させる。ほら、校庭の池にマグロの刺身浮いてた事件あったでしょ? あれ、マグロが好きって言った私に必ずマグロやるからって勝手に宣言した、翌日のことなの」
「ああ、あの事件。でも、コッペパンって安いだけじゃなくて、いろんな味があるじゃん。いつも選ぶのに迷うよ」
少女が一瞬黙って、頷く。
「……そう、だからコッペパン。安いけど、いろいろな可能性を感じさせてくれる人だった」
「悪い人じゃなかったんだ」
「でも、誰かはこの人を悪だと、思ったらしいね」
少年と少女は、改めて鎌谷先輩の死体を見下ろした。
苦痛に歪んだ顔は、人であることを証明している。
「やり過ぎてレンガで殺されたのはわかったけど、じゃあこのビリビリに破かれたタロットカードは? なにか意味ある?」
「そんなの、タロットカードってだけで、何が描かれているかわかるよ」
「なるほど」
可能性のゼロが、意気消沈し死体に飾られていた。
nina_three_word.
〈 コッペパン 〉
〈 ピース 〉
〈 レンガ 〉
〈 フール 〉