読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

kurayami.

暗黒という闇の淵から

鈍色火葬町

 それはすぐに、夢を見ているとわかった。しかし夢ということだけあって、夢だということを、なかなか意識させてくれない。
 真昼間の町。遠くでは踏切の音が響いて、それ以外に音は聞こえない。人の気配もない。青空は不気味なほどに青く、雲が一つもない。過ごしやすい生緩い温度を肌で感じる。
 それは、僕の記憶にはない町だった。だけど何故か、遂に来てしまったという気持ちになる。どこか、呆れるような。
 知らない風景に段々と目が慣れて、そのとき、初めてこの町の異質に気づいた。夢だと思う要因は、これかもしれない。
 道の両端、そこには少し錆びた、縦長のロッカーが、道の奥まで並んでいた。敷き詰めるように外に並ぶロッカー、その異質さが怖い。
 間違えても、開けてはいけない、そんな気がした。
 夢だと意識できない僕は、その町の奥へと踏み込んだ。ロッカーの道はどこまでも続き、その錆び方、高さは全てが違い、一つとして同じものはない。だからだろうか、各々のロッカーには所有者の臭いがあった。立ち止まって一つのロッカーを見てみれば、何かぶつかったような、蹴ったような跡がある。
 そのロッカーをまじまじと見ているとき、開く音に、僕は右後ろを振り返った。
 半開きになったロッカーが、そこにあった。閉じたものが並ぶ中、それだけがまるで僕を誘うように、半開きになっていた。淡々とした夢の中で、僕は新しいアクションを求め、そのロッカーに手をかけ、ゆっくりと、開けた。
 僕は、拍子抜けする。中には、古びたぬいぐるみ、女性物の服、鞄等が詰まっていただけだった。ただロッカーの役割をしているだけじゃないか。僕は夢の中だというのに、鼻で笑った。しかし、何故か得体の知れない不気味さがそこにあって、心からは笑えなかった。
 それから、町の中を進めば半開きのロッカーは他にもあった。やはり、どれも何かしらの物が詰まっているだけだ。音楽CDと酒ビンが詰まっているものもあれば、本とカッターと制服が詰まったロッカーもある。詰まった物が少し古びているということ以外に、統一性はない。
 こうして見ていると、持ち主の顔が見えてくる。まるで、その人を表すような……
 ふと、そこで気付いた。気付いてしまった。この雑多な物の集合が、人であることに。いや、人一人の型、というのが正しいのかもしれない。クイズのように、答えを表すヒントの集合。答えが決まった数式の穴。情報だけの、存在証明。
 人の型をした、縦長のロッカーが、まるで棺桶に見えた。だとしても、肝心の本人はいない。まるで中から出たように、扉は半開きだ。
 ならば、閉め切ったものには……
 歩き続け、気付けば踏切の音はすぐそこだった。僕はその音を頼りに、踏切へと辿り着く。
 踏切は、動いていた。二つの赤いランプを点滅させ、それに合わせるように、電車は音もなく走る。
 この町の果て。踏切の向こう側。線路の上が、この町と夢の出口のようだった。夢だとわかっていても、向こう側へとくぐるのは怖いものだ。
 しかし出口があるなら、入口があるはずだ。だが、入口を通った覚えは、僕にはない。
 僕は、どこからこの夢に来たのだろうか。

 

nina_three_word.

〈 点滅 〉

〈 出口 〉

〈 ロッカー 〉