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kurayami.

暗黒という闇の淵から

ブルーリーブ

 気付いたとき、私は起きていた。そういえば朝って、そういうもの。
 眩くて優しい光、ちょうど良い布団の包容力と温もり、それと、少しだけ陽の匂い。ちょっとだけぼーっとして、意味もなく手を伸ばしてみて、光に濡れた自身の腕を見た。それは輝いていて、とても綺麗。
 一回、二回と寝返りを打っても、微睡む頭が覚めない、朝は気持ちが良いけど、快楽の地獄。薄い布団を抱き寄せて、思考せず静止して、突然、目が覚めた。それは、美味しそうなフライパンの音、ウィンナーの焼ける匂いがしたから。急にお腹が空いて、今日初めての欲だってことにも気付かず、私は布団を出る。
 お手洗いを寄り道に、洗面所で冷たい水で顔を洗って、台所に入る。さっきは聴こえなかった、女性歌手の歌が流れている。きっと、私が起きた気配に合わせて流し始めたんだ。
 葉子は、エプロンを巻いて、目玉焼きを作っていた。
「おはよう」
「おはよう、光希。ねえ、冷蔵庫から醤油出してもらってもいい?」
 私は葉子の言う通り、醤油と、冷えた麦茶を取り出した。
 葉子と私のグラスを並べて、麦茶を注ぐ。誰が決めたわけじゃないけど、青のグラスは葉子、赤は私が使っていた。
「ありがとう」
 醤油を受け取った葉子を見て、一つ気付く。身なりが、整っている。
「あれ、今日仕事……? どっか出掛けるの?」
「ん、ちょっとね」
 葉子が、皿に目玉焼きを乗せる、他にウィンナーと、焼き椎茸が乗っている。茶碗にご飯が盛られ、冷やされたゆで卵を別皿に乗せて、葉子が作った朝食が完成された。
「いただきます」
 二人で声を揃えて、合掌。
 私は、まずウィンナーに手をつけた、薄味の胡椒と丁度良い焼き加減、葉子の味だ。
「ウィンナー好き」
 頭に浮かんだ言葉がそのまま口に出ていた。
「ねえ、話があるの」
 葉子が、箸を置いて、両の手を机に重ねた。
「……なあに」
 私は、少し嫌な予感がした。なんとなく、それは突然ではない、そんな気も。
「私、食べ終わったら、出て行くね」
「嫌だよ」
 即答した。理由はなんだかわかっていた。ううん、一つとかじゃない、様々な理由が生活にあって、葉子が離れそうだと。
 離れる前兆は前からあった。けど、わかっていて、変わらないことで、葉子が離れないと勝手に信じていた。
 甘えていれば、葉子の優しさがこの関係を保ってくれる、そう思って。
「ごめんね。相談しても変わらないことも、わかってるから。本当に、ごめん」
 葉子の目玉焼きから、半熟の黄身が漏れて、白い皿に流れた。
「……きっと、今日この朝じゃなくても、私たちは終わっていたと思う」
 葉子が最後に、そう言った。
 黙々と、朝食は行われた。窓からの光だけが、暖かい。
 私は、これまでと同じように、何も言えなかった。あの椎茸を食べ終えたら、葉子は出て行く。
 甘えが、私の甘えという小さく可愛い糸切りばさみが、容易く関係を切ってしまうだなんて、知らない、わからなかった。
 どうすれば、良かったのかな。でもきっと、葉子は答えてくれない。
 結び直すことだって、もう許されない。 

 
 

nina_three_word.

〈 糸切りばさみ 〉

〈 朝食 〉

〈 前兆 〉