読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

kurayami.

暗黒という闇の淵から

ある入門者

 大好きな彼との馴れ初めは、三月の末のことだった。
 普通に恋愛を重ねて、普通に近づいて、ついにその恋は成就したの。八回目のデート、天気の良い木曜日、河川敷でのピクニック、レジャーシートの上で。私たちはいつの間にか恋人になっていて、それをその日、言葉で交わして確認をした。向かいの河川敷に沈む夕陽は、まるで私たちのことを祝福してるみたいで、冷たい風は私の背中を押してるみたいだった。
 私にとって恋人になれた幸福よりも、恋が成就していたことが大事だった。だって、そうしないと次に進めないから。私はもっともっと先のことを望んでいたから。
 それからというもの、私は彼にもっと好きになってもらうように、たくさんの言葉と、たくさんのプレゼントを送ったの。たくさんの甘い言葉を投げて、彼の数少ないお願いごとは全部聞くようにした。それが悪いことだってわかってる、彼のためにならないってわかってる。だからこそ、甘やかす。私は、汚れでいい、彼の心に〈私〉がこびりつけばいいんだ。こびりついて、一生落ちないように。
「もっと甘えてもいいんだよ」
「ねえ、私にできることはない?」
「無理しないで、たまには休もう?」
 良い子な彼は、最初のうちは汚れの私を全く受け入れなかった。かと言って、拒否するわけでもなく、自然に受け流していた。彼らしい。だから大好きなんだけれど。そこを付け入るように、私はしつこく彼を汚そう汚そうと、言葉を投げかけた。そうすることで、彼は少しずつ、汚れの私を受け入れく。男の人が処女を犯すような感じって、きっとこうなのかな。目的とは違うけど、綺麗な心を汚すことに、少し興奮する。
 出会った頃と同じ冬になって、彼の心は汚れきった。その良心を持ちながら、私に甘え、私を使い、私に依存していた。その頃の彼が言う「好き」が本心からなのか疑わしかったけど、いい。少しだけ寂しいけど、いいの。私自らこの状況を望んだのだから。ねえ、もう私でいっぱいかな、私のことだけを考えていてくれてるかな。もう、とどめを刺していいかな。
 私はもう自然と上の立場だった。彼は下から手を伸ばすように、私に助けを求め、気まぐれに助ける。そしてある日、とどめを刺したい日、私はその救いを求める手を、最低で最悪な言葉と共に払い退けた。彼は、可愛い顔で泣いていた。その可愛い顔を、ずっと見ていたかった。でもそうすると、とどめが弱くなりそうで、すぐに背を向ける。これでいい、この失恋で彼が呪われるなら、私を忘れないのなら。

 大好きな彼の心にこびりついた私の汚れが、ずっとずっと、落ちませんように。


nina_three_word.

〈 とどめ 〉

〈 なれそめ 〉

〈 こびりつく 〉