見上げれば、暗緑色の天井。その奥、遥か彼方に、太陽の光が見えた。
この宿り木に覆われた樹海の中、どこを見ても木々が生い茂っている。よくよく見れば、懐かしい街並みが木々に覆われていた。
蔦の絡まった道路標識に〈一キロ 吉祥寺〉とだけ、書かれている。ああ、通りで。もしかしたら、知っている場所なのかもしれない。少しだけ、懐かしいと思った。子供の頃、訪れたことがあるのかもしれない。
「少しだけ、少しだけ仮眠をするよ」
疲れ切った君はそう言って、今も私の隣で目覚めない。随分と長い仮眠だ、いつになったら目覚めるんだろう。その横たわった身体からは宿り木が生え、元気に育っている。
「ねえ、まだ起きないの」
私は、君に……というより、君から生えた宿り木に話しかけていた。
なんとなく、そっちが本体だと思った。ううん、もう、そっちが君なんだって、気付いていたのかもしれない。
仮眠をする君は、変わり果てていた。随分と痩せてしまったね、仮眠しているだけだなのに。寝てるとき、眉間に皺を寄せるその顔がとても可愛くて、いつまでも見れていたのに、今じゃ、もう。
少し、待ち疲れてしまった。隣で添い寝をするのを、君は許してくれるかな。
元々添い寝するような関係じゃなかったよね。この広い樹海の中で、私たちは偶然出会った。一緒に助け合って、この宿り木の出口を探し続けた。
でも結局、出口なんて見つからなくて、私たちはこの〈東京だった街〉を彷徨った。ずっと言わなかったけど、時々頼りになる君は、かっこよかったよ。その仮眠から目覚めたら、かっこいいって言ってあげても良いかもしれない。
ああ、君の横で添い寝してるうちに、本当に眠たくなってきた。少しだけ、少しだけ仮眠……ああ、これは君が寝る前に言っていたことと同じだ。なんでわざわざ、言い訳をするのだろう。目覚めた先を、何か期待を……
君は、仮眠から覚めたとき、何をしたかったのかな。
それとも、私に起こして欲しかったのかな。
ああ、ぼんやりしてきた。せめて、せめて。
私は、君の肩に抱きついた。
「おやすみなさい」
瞬間、私の意識は深い深い水の中へ落ちるように、ゆっくりと重く、沈んでいく。疲れ切った身体から切り離され、全ての困難を克服したような、甘い気持ちになる。
遠くなっていく、向こう側。私から言葉が漏れていく。
「もう少しだけ」「君が」「起きるのを」「待っていても」「良かったかな」
「でもきっと」「惰眠が」「好きな」「君は」「起きない」
言葉は、泡沫のように、浮かんでいく。
「なら」「君が起きた」「とき」「私を」「起こせばいい」
「君に」「起こされたい」「から」
「でも」「叶うなら」
「私」「に」「キス」
「して」「 」
「 」
nina_three_word.
〈 泡沫 〉
〈 仮眠 〉
〈 ヤドリギ 〉