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kurayami.

暗黒という闇の淵から

わがままの瘡蓋

 土曜日、昼間。僕と彼女はベッドに腰をかけていた。
 彼女の左腕に、ボールペンを真っ直ぐ立てて、線を描く。油性のボールペンだけど、それは薄い線となって、よれよれとなっている。まるで情けない。
 彼女はというと、腕に落書きをする僕なんか見ずに、テレビをぼうっと見ていた。いつものことだから構わないけど、その世界の衝撃映像集みたいのは見てて面白いのだろうか、僕以上の魅力がそこにあるのだろうか。
「ねえ、くすぐったいよ」
 そう言って、彼女がやっと僕に反応してくれた。
 僕は子供のように、真っ直ぐと立てたボールペンで書き続けた。
 真っ直ぐ、真っ直ぐ。くすぐったいと言った彼女に合わせたわけじゃけど、力を入れ、皮膚に線を描く。
「今度は痛いよ」
 痛いんだ。そう思った僕は、ボールペンを腕に突き刺した、刺していた。
 彼女が短く呻いて、身を震わせる。赤くて小さい丸が彼女の腕に出来て、しばらくして赤い彼女がゆっくりと流れて、その腕を流れた。
「あ、ごめんつい」
 つい。つい、彼女を傷付けたくなってしまった。
「……もう」
 僕に慣れた彼女が小さく文句を言って、諦める。傷付けるたび、怒られないのは安心する。僕を甘やかしていると、彼女は自覚しているのだろうか。
 それにしても、彼女から血が流れたのは、いつぶりだろう。
 噛み跡まみれの細い左腕、そこに出来たその小さな赤はまるで、僕の欲望だった。


 彼女の腕を刺してから三日後の火曜日。
 その日、僕は彼女よりも早起きをした。隣では彼女が片腕を伸ばして寝ている。
 ふと、左腕、この前の刺し傷が目に入った。
 傷は塞がって、厚めの瘡蓋が出来ている。少し黄ばんだ透明な瘡蓋は、美味しそうな飴色をしていた。
 きっと寝てる間なら、許される。短絡的な思考。それがあっという間に僕を動かし、手も使わず犬みたいに、傷に口を寄せて噛み付いた。彼女が、寝惚けた声を出す。
 飴色の瘡蓋を、舌の上で転がして、ゆっくりと咀嚼する。少しグミに近い、一瞬の弾力、しかし、あっという間に溶けていった。飴とは程遠い味、鉄の味でもない、無味っぽい。ああ、瘡蓋だからだろうけど、無っぽい彼女にぴったりな味だった。
 瘡蓋が剥がれた傷から、また赤が流れる。
 彼女がうっすらと目を開けた。その目は何を見ているのかわからない、半分生気のない目。きっと、彼女は僕が飴色を食べたなんて、わからないだろう。
 僕がその飴色の味を気に入ったことも知らないまま、これからも彼女は僕のわがままを受け入れていく。そう思うと、この新しい朝が愛おしく思えた。

 

nina_three_word.

〈 飴色 〉

〈 直筆 〉

〈 欲望 〉