kurayami.

暗黒という闇の淵から

降り続く

 駅を出ると、雨が降っていた。傘の持っていない私は、目を細める。
 しばらく駅の入り口で、降る雨模様を見つめた。駅から出てくる人は、この雨を予想して傘を持っていた人、傘を忘れたけど諦めて濡れて行く人と、大きく二つに分かれている。私みたいに、雨が止むのを待つ人なんて、いない。
 タクシーがどんどん減っていって、駅前には、私だけになった。
 雨はまだ、止みそうにない。
 雨を見ていると、憂鬱だった、あの頃を思い出す。


 私には、二人の友達がいた。幸江と祐一。幸江は、女の目標を具現化したみたいな美人さん。祐一は、とっても優しくて頼れる男子。高校からの仲良しで、三人でよく、遊んでいた。
 二人は、よく私の家に遊びに来ていた、高校から一番近いという理由から。それは、高校を卒業した後も、ずっとそうだった。私からしたら、二人が家を訪ねてくることが、とても、嬉しかった。
 幸江は私の家に、よく忘れ物をしていた。それは上着だったり、携帯だったり。今でも幸江が、取り忘れているモノがある。美人さんなのに、そういうとこが抜けている。完全より不完全に惹かれると言われるけど、きっとこういうことを言うんだ。
 祐一は私の家に、よく相談しに来ていた。相談内容は、付き合い始めた幸江のことだった。優しい祐一は、常に幸江のことを気にかけていて、細かいことも私に相談していた。きっと、幸江もその優しさに惹かれたんだと思う。その優しさが、残酷だとも知らずに。
 私は幸江も、祐一も、好きだった。特に祐一のことは大好きで、愛していた。二人が付き合い始めたと知ったときは、素直にそれを喜んで、祝福した。幸江は汚れ役を自ら受け持ったんだと思う。もし私が付き合っていたら、この三人の中での汚れ役は、私になっていた。
 それでも、この想いを我慢するのには、期限があって、いつか壊れていたはずだ。その期限を食うように早めたのは、祐一だった。
 だから、仕方がなかった。幸江と祐一が遊びに来た、最後の日。幸江が先に帰って、祐一が私に相談を持ちかけてきた、あの日。幸江はあれからずっとずっと、私の家に忘れ物をしている。
 それは大きな、大きな、忘れ物なのに。


 降り続けていた雨が止んで、私の道が出来た。
 重たい灰色の空。この晴れ間の道は、きっと長く続かない。すぐに……雨が降る。その前に帰らないと、床下の忘れ物が、寂しがってしまうだろう。
 幸江は、今も忘れ物に気付かない。取りにこない。
 どうか、そのままでいて。
 その間はずっと、私のモノだから。

 

nina_three_word.

〈 晴れ間 〉

〈 床下 〉

〈 忘れ物 〉