kurayami.

暗黒という闇の淵から

バスルームシーン

 その映画は、電気が消えたリビングの中で、呆気ない終わり方をしてしまった。
 宇宙船の中で鉢合わせたエイリアンとの死闘。仲間の死。そしてラストシーン……主人公のお腹の中に寄生したエイリアンを映して、バッドエンド。
 エイリアンが何処から来たのかとか、主人公の息子の行方とか、いろいろな謎を残したけど、きっと続きを作るために、残したんだと思う。それで、この映画が何年経っても続編を作られないのは、大人の事情だってことも、私には子供ながらわかっていた。
 ママとパパも、もやもやしているのか無言でソファを立ち、片付けを始めた。私はまだ怖くて、掴んだクッションを離せないでいる。
 でも、でも、そろそろお風呂に入らないと、ママに怒られちゃう。それに、ママたちが起きてる間に入らないと、後が怖い。
 パパもママも、もう寝る準備をしていた。早く入らないと。
 私は、二階へと続く、暗く細長い階段を覗いた。バスルームに行くには、この階段を通らないといけない。私は一段一段と、足を掛ける。ふと、エイリアンが階段を駆け上がって来るシーンを思い出して、私はばたばたと駆け上がった。うるさくしたから、後でママに怒られちゃうかもしれない。
 幸運なことに、バスルームの電気はつけっ放しだった。覗くと冷んやりしている。少しだけ、怖い。バスルームは昔から、エイリアンがいなくても怖い。
 服を全部脱いで、カーテンを閉めて、シャワーを捻る。勢いのある水圧の音に、安心した。ママは、私がちゃんと一人で、お風呂に入れていること、知っているのかな、信じていて何も言わないのかな。
 髪を洗って、身体を洗っているとき、バスルームって何かに似ているなあ、なんて余計なことを考えてしまった。真っ白でつるつるしてる。映画の中に出てきた実験室、そっくりだ。
 余計なことに気づいたって、後悔する。実験室のシーンを思い出す……そうだ、エイリアンがゆっくり、ゆっくりと主人公たちに近づくんだ……主人公たちはそれに気付かなくて……それで。
 みしっ、と音がした。みし、みし、と。それは階段を上がる音だった。私は怖くなった、エイリアンだったらどうしよう、どうしよう。寄生されちゃう。
 それはゆっくり、ゆっくりと近づく。カーテンの向こうに大きな影が見えた。私は、身構える。
 カーテンが勢いよく開いた。ママと、パパだった。私はホッとする。

「……なあ、もう、これで何回目だ」
 パパが、怖い顔をして、シャワーを止めた。
「壊れているのかしら……」
 ママが、疲れた顔をしている。
「やっぱりアンジーなんじゃないか。さっきだって、階段の音がしただろう」
「やめてよ。……アンジーは、死んだのよ。いるわけ、ないじゃない」
 そう言って二人は、バスルームの電気を消して下に降りていく。


 ねえ、ねえ、私、ここにいるよ。


nina_therr_word.

〈 バスルーム 〉

〈 エイリアン 〉

〈 スピリチュアル 〉