kurayami.

暗黒という闇の淵から

ノウハート

 神の気まぐれも起きないような、厚い雲に覆われた暗い昼下がり。その子を助けたのは、僕の気まぐれだった。
 薬品に枯れた森の外れ、女の子が逸れた兵士に襲われていた。
 直感的に気に入らないと思ったのは、力の強い方。僕は〈想い〉を兵士に向けた。兵士の頭から煙が上がり、頭を抱え倒れ込む。
 女の子が唖然として、僕を見つめていた。


 またしばらく日が経った頃。僕は再び、枯れた森に足を踏み入れた。
 運が良ければ狸の一匹でも見つかると思ったけど、そこにいたのは、この前の女の子だった。
 戦争が永遠に終わらないこの世界、人肉は選択肢に十分に含まれる。
「あ、の、ねえ、ねえ」
 女の子が、僕に声をかけた。喋りかけてきたことで、食べる気がなくなっていく。
「なに、なに」
「この前は、有難うね」
 律儀に、お礼をしきた。見た目年齢で言えば、その女の子は僕と同い年だ。この時代にしては、しっかりしている。そういうのは嫌いじゃない。
「うん、どういたしまして」
 救ったつもりじゃなかったけど、僕は返すべき言葉で返す。
「ねえ、ねえ。なにしてるの? この前のはどうやったの? 名前はなんて言うの」
 頭の悪い方法で、女の子は僕に質問をした。
「えっと、お腹空いたから食べ物探してた。昔、研究室で頭を弄られたからすごい力が使える。名前はたぶんノウって言うんだ。君は?」
 頭の悪い返答をしたのは、久しぶりの会話を心の何処かで喜んでいたのかもしれない。
 涼しい風が、森に吹く。
「私はねえ、ハトって言うの。頭大丈夫? お腹空いたのなら乾パンを分けようか」
「ハト、頭はたぶん大丈夫だよ。乾パンは欲しいな」
 研究所から逃げて以来、初めての友達だった。


 それから幾つもの日々を、ハトと過ごした。
 ハトには、僕に無いものがたくさんあった。それがとても魅力的で、もっと知りたいと思えた。
「ノウはその力で何が出来るの」
 ハトが木の実を集めながら、僕に聞いた。
「うーん、今なら、そうだなあ」
 僕は〈想い〉を、ハトに向ける。
「あ、なんか暖かい」
「暖かいんだ?」
 怪我をするとは思わなかったけど、ハトがそう温度を感じるのは予想外だった。
「ええ、なにがでるか、わからないの?」
「うーん、僕はね。脳にある〈想い〉を熱量に変えることができるんだ」
「想いは、脳? にあるの?」
 ハトが、外れた質問をした。
「脳だと思うけど」
「胸にあると思った」
 不思議なことを言う子だ。僕が実際に弄られたのは、脳なのに。でも何故か、そう言われると安心する。まるで、ハトと同じモノだと証明されてるみたいで……
「あ、また暖かくなったね」
 ハトが暖かい笑顔でそう、呟いた。 


nina_three_word.

〈 念力 〉

〈 温度 〉