kurayami.

暗黒という闇の淵から

セカンドプロローグ

 これからする僕の〈話〉は、決して嘘偽り、虚構の物語、ではない。これから先の未来に始まる瞬間の物語であり、とある過去の何時かに起こった記憶でもある。しかし、だからと言って覚えておく必要はないよ。今、この〈話〉を聞く貴方は、過去の貴女でも、未来の彼方でもないのだから。どうせ三秒先には死ぬ運命なんだ……ああ、どうせなど言ってしまってすまない、他人であり僕である貴方が、なんだか他人とは思えなくて。ああ、そう、貴方はまるで、最悪の彼女に…………いや、これもまた〈話〉を聞けばわかる。僕のことも、彼女のことも、三秒先に死んでしまう貴方のことも。ああ、全部知ってしまう貴方が可哀想だ。真実というものは、全ての真実に限り、残酷なものだからね。もちろん、聞いて良かったと思うかもしれないけど、これから先、新しく知ることはもう二度とないのだから。だからきっと、この話を貴方は聞き流すだろう。いや聞き流すんだっけ、貴方は。そうだった。知ってるよ僕は。貴方のことを知っている。信じてもらえないかな……ほら、昔からよく言うだろう。「赤目の少女は、小さな船で、数多の海を覗く」って。もちろん僕は、貴方がこのことわざを知らないことだって知っている。決してふざけてないよ。証明したのさ、僕が貴方のことを知っている、ということを。話す前に証明は必要だからね。他にも知っているよ。君と呼ぶと嫌な顔をすること。貴方の世界には昼があって夜がある、朝があって夕があること。これから話す「噺」も、僕たちの作り出した〈ワード〉も、貴方の世界には大きく干渉しないこともね。さて、信じてもらえたかな。聞き流してくれるのは良いけど、信じてもらえなければ虚しいからね。僕が唯一知らないのは、貴方がこの〈話〉を信じてくれるかどうかってことだけだ。だからいつだって、貴方と対峙するこの三秒間は、心の底から吐くように、不安になるよ。こんな気持ちになるのは、最悪の彼女と過ごした十一月の昼下がり以来かもしれない。ああ、すまない、また〈関係のない話〉をしてしまったね。まあ「妖怪は三度吐く」ってことさ。このことわざも知らない貴方。知っていたかもしれないけど、今は知らない。貴方はもうどこにも繋がっていない。モニターと平面紙面の向こう側のアナタにも繋がっていない。それが貴方だ。しかし、もう三秒経とうとしている。僕はこれからも語り続けるが、貴方が死ぬことで、この冒頭語りは永遠に終わらない。貴方は〈話〉を聞くことができない。さあ、そろそろ時間だね。三……二……一……


nina_three_word.

〈 終わりのない 冒頭 〉