植物というのは、太陽光無しには生きていけないモノが殆どだ。しかしそれを欠点とし、弱いモノと見るのは間違いだ。むしろ悩ましいほどに、逞しい。
人間のように様々な栄養、阿呆みたいな欲、贅沢な時間に、価値ある経験を、植物は必要としないだろう。ああ、それを理由として強さを判断するのは、僕の前向きな主観が関係してくるところなんだけど。まあ、聞いて欲しい。
僕が尊敬し、愛おしいと思い、崇拝する精神は、まさに植物に近かった。いや、クロロプラスト。光合成をする細胞小器官……葉緑体と言った方が、近いだろうか。人の光を糧に、成長し、生産し、息をする精神なんだ。しかし、その本質は〈光〉ではなく、紛れも無く淀んだ美しい〈闇〉だ。
その美しい色素を含んだ肌で、多くの人に愛され、光に恵まれる。その影響を精神に及ぼし、明反応をしていた。それは知識として、記憶として、一度確かに生産されるが、僕が崇拝する精神は、そこで終わら無い。
光を材料に、彼女は暗反応し、闇を作り出す。
「よく頑張ったね」を「必死な様が笑えるね」に。
「助かったよ有難う」を「お前にお似合いな役回りだ」に。
「今までごめんね」を「これからはより酷いことをするから覚悟しろよ」に。
夢を叶えようとする意思を、失敗し堕ちる可能性に。
まだ見ぬ明日を、今日という犠牲の副産物に。
生を授かりし生物を、死が訪れる存在に。
「愛してる」を「お前には俺みたいのがお似合いだ」に。
輝く光を濁った闇に、作り変えていく。
そうすることで、世界を恨みたいわけではないらしい。ただただ、それを受け入れ、世界を人よりも暗く見ている。酷く歪んだ、美しい葉緑体のような精神だ。惚れ惚れとする。
そこから見える暗い世界は、どんなものなのだろうか。深海の底から太陽を見ようと、虚しく泡沫も吐かずに静かに沈んでいくような、そんな景色を僕は考える。
ああ、僕も暗く淀んだ深海世界に一緒に沈みたい。
僕が崇拝する貴方の精神と共に。
……だなんて、僕の目の前で珈琲を片手に、本を読む彼女本人に言えない。どう変換するのか気になるが、何よりも恥ずかしい。側に置いてくれるだけでも御の字だが、やはり、僕はもっと彼女の精神に触れたい。
ああ、そうだ。その本を読み終えた頃に、海にでも誘おうか。
希死念慮と囚われようが、それでもいい。
例え僕を藻屑と見ていても、それでも構わない。
僕は貴方を、何処までも、何時までも。深海の底に落ちても。永遠に、崇拝し続ける。
nina_three_word.
〈 葉緑体 〉
〈 精神 〉
〈 深海 〉