kurayami.

暗黒という闇の淵から

廃アパート

 僕が足を踏み入れたのは、荒れ果てた住宅街だった。
 何か食べ物はないかと家探しをしてみたけど、案の定、どの家も既に荒らされた後で何も残っていない。そもそも家が荒れすぎていて、何処に食べ物の気配があるのかもわからない。
 代わりにあるのは、転がり落ちている銃弾と薬莢ぐらいだ。
 僕は「おじゃましました」と言って、低くお辞儀をして家を出る。空を見上げると、相変わらずの夕焼け色だった。空がこの色になってもう七年になる。
 ほんの少しだけ周りの家を調べてようかどうかと思案していると、塀の陰からナイフを持ったガキが突然出てきた。僕はハンドガンで、ガキの右足を狙って撃つ。見事に命中、銃声でガキの仲間が来ると不味いと思い、咄嗟に住宅街の奥へと逃げた。
 逃げると、自然と複雑な所に逃げ込むのは僕だけだろうか。僕は咄嗟にボロボロに朽ちたアパートの二階へと逃げていた。せっかくなので中を調べてみよう、アパートだからという理由で誰も調べていないかもしれない。まあ、そんな甘いことはないだろうけど。
 中に入ると、比較的に見て荒らされた跡はない、つまり〈当時〉のままだった。玄関にはビニール傘が数本立て掛けてあって、効果を無くした芳香剤が置いてある。靴入れの中を見ればヒールが並んでいた。部屋の主は女性だろうか。
 これは食べ物以外にも期待出来るぞと、慎重に中に入っていく。壁には意味のわからない安っぽい装飾がされている。埃を纏った暖簾をくぐると、少し荒れたリビングが現れた。ベランダの窓が大きく割れていたから、雨風で荒れたのだろう。
 台所の冷蔵庫は、そっとしておいた。下の棚を見ると日付の切れたカップ麺に、インスタントのおみそしる、その奥には……ビンゴ。まだイける缶詰があった。鯖缶だ、今日はご馳走になるぞ。
 少しここで休んでいこうと、白いベッドにもたれかかる。ベッドの上には、女の子が四人が写った、この部屋で撮ったであろう写真が飾ってあった。ふぅん、右、一番右の子が可愛い。うん、この猫を抱っこしている子が恐らく、この部屋の主だろうな。
 壁を見れば、その猫が付けたであろう爪痕が残っていた。それを見て、ねぐらに遊びに来る黒猫を思い出す。今日も来てくれるだろうか、今の所、彼女だけが僕の友達だ。
 ふと、みしみし、という音が聞こえた。僕は写真の女の子たちを見つめた次の瞬間に床が崩れ、落下する。比較的高い位置じゃなかったから、そんなに痛くなかった。強打して痛いところは痛い、という感じだ。
 一階は争った跡が酷く残っていた。そして、火薬の匂い。それも数日前とか、最近のものだ。庭に出れば住宅街で見た以上の、弾薬と薬莢が転がっている。
 後ろを振り返り、道に続く崩れた塀を見て、僕は息を飲んだ。
 コンクリートを抉る、巨大な五本の爪痕が、荒々しくそこに残っていた。
 争った相手は、どうやらまだ近くにいるらしい。僕はハンドガンを握り直し、住宅街へと戻っていく。

 

 


nina_three_word.

〈 銃弾 〉

〈 爪痕 〉