可愛いスカートを身に付けた私。目立たない行きつけのカフェ。壁際と窓際の狭間にあるお気に入りの二人席。空が曇り、白いカーテン越しに重たい光が射し込む、憂鬱混じりの木曜午後三時の休息。
私はこのカフェで二番目に好きな、ふわふわのチーズスフレに銀色のスプーンを刺して、口に運んでいた。口の中でその柔らかさを咀嚼し、甘いチーズをしっとりと味わう。そしてその甘さを中和するために、紅茶の入ったティーカップに唇を重ねて、小さく飲んだ。スフレの甘さを、再び口の中で転がすために。
窓の外を見れば、仕事で行き交う車と大人が忙しく歩いている。でも、休日を楽しむ私からしたら、動く風景でしかない。
貴方もまだ、仕事をしているのかしら。
愛しい貴方。私の救世主。今じゃ、私にとっての宗教。貴方は、たくさんのことを私に教えてくれる。世界のこと貴方のこと、私のこと。知ることで生きることが変わった、目に見えるものが変わった。
教えてくれることで、自身の生を保っているから、私は貴方から離れることなんて出来ない。そして、離れられないことを自覚するたびに、貴方はずっと私と一緒なのかしらって、嬉しくなって飛び跳ね回りたくなるの。前向きで、根拠が無くて、おかしな話よね。
無意識に、スフレを再び口に運ぶ。永続的な甘さが、口の中に広がった。
こうして、ここで貴方のことを想い考える時間が、私にとって、ちょっとした幸福な時間。貴方に内緒の時間。
貴方はどれぐらい私のことを、知っているのかしら。
きっと、良い子な面だけだと思う。ねえ、きっとそうでしょう?
貴方の母になりたいと思っていることも、死んだ貴方の顔を見たいことも、つまり貴方とピエタになりたいと思ってることを、貴方は知らないもの。
私、悪い子で、貴方の死に顔をはやく見たいと思ってる。
このスフレと、形を整えてくれるパニエと同じ。私はそんな可愛くて綺麗で美しいものが大好き。
だから、母のようになった私に、甘えながら苦しんで死んでいく貴方はきっと、何よりも私が望むものだと思うわ。今まで私にたくさん教えてくれた恩返しに、パニエで膨らんだふかふかのスカートの上で、たくさん甘やかして殺してあげたい。
なんて、ね。
想う、考えるだけ。甘いものを口で転がすだけ転がして、甘いことを考えるだけ。
内に秘めて、貴方にとっての良い子でいなくっちゃ。
ああ、そろそろスフレに飽きて来ちゃった。いくら紅茶を飲んでも、その甘さはくどいわ。
次に来たときは、チョコレートケーキで、貴方を苦く甘く想いましょう。
nina_three_word.
〈 パニエ 〉
〈 ピエタ 〉
〈 スフレ 〉