kurayami.

暗黒という闇の淵から

白み始めた終

 いつまで経っても、夢の中へ落ちることはなかった。
 寝苦しさのせいでもなく、暑さや寒さでもなく、空腹でもない。ただただ、想えば想うほど、眠気から遠ざかっていく。
 この夜が明けてしまったら、世界が消滅してしまう。
 その事実が、安眠をもたらせない。
 何度だって、目を閉じた先にある暗闇に思考を放棄して逃げようとした。でも瞼の裏に浮かぶのは、今までこの世界で生まれた記憶と、消滅という絶望的事実だけだ。
 消滅してしまえば、もう何も叶わない。
 思い描いていた未来に辿り着くことだって、もう無くなってしまう。
 どう足掻いても、何往復と寝返りをしようとも、世界消滅の事実は変わらない。
 しかし、そうはわかっていても、幾つもの「もしも」が頭に浮かんで、再びその先の未来を思い描いていた。虚しいとわかっていても止められないのは、まるで諦めていない。受け入れられないからだろう。
 携帯を触ると、画面には午前三時十二分と表示されていた。もういつの間にか、夜の峠を越えている。あと二時間、三時間で朝を迎えてしまう。
 貴女は今、寝ているのかな。それとも同じように、眠れないでいるのかな。
 携帯の明るさから逃げるように、布団の中へと逃げ込んだ。胎児のように丸まって目を閉じれば別宇宙になる、その布団の中へ。そこにいつもの安心感はない。夜の静けさと、暗闇と、思考頼りの時間が、全てをスロウにし、ただひたすらに絶望を濃く落としていく。
 ああ、そうか、眠れないんじゃない。眠ることで、まだこの世界が存在している、この消滅前夜から離れたくないんだ。
 眠ってしまえば、あっという間に朝だから。
 眠ることを諦めて、布団から抜け出す。電気の消えたままの台所を、外から漏れる街灯を頼りに進んだ。台所に立って、貴女がくれたマグカップに、水道水を注いで口を付けた。随分と喉が渇いていたみたいで、音を立てて身体の中へと流れていく。その現実味が、この絶望的前夜のとどめとなって、台所にもたれかかるように座り込んでしまった。
 静かに涙がボロボロと流れる。嗚咽も出ることもなく、ただただ、この夜に涙を落とす。
 もう、貴女と、何も出来ない。
 死んでしまえば、もう全て終わりなんだ。
 残るのは、この記憶だけじゃないか。貴女がいなければ、意味は。
 空が白み始めた。もう後少しで、この前夜が終わる。
 貴女の余命残り数時間を終えた時、貴女が作り上げてくれたこの世界が、消滅を始める。
 時間は、止まることなく、まるでシンクに落ちる水道の雫のように、一刻一刻と進んでいた。
 

 

 


nina_three_word.

〈 消滅 〉
〈 前夜 〉

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