昼に付けっ放しの灯のような、何処か、間抜けなヤツ。
俺がアイツと初めて出会ったのは、高校二年生のクラス替えのとき。アイツ……津田沼優一の席は、竹中である俺の後ろの席だった。
俺が話好きで津田沼が聞き上手ということもあって、しょっちゅう後ろを向いては津田沼と話をしていた。「なんで?」「どうして?」と聞いてくれるから、話し甲斐があって楽しい。
しかし、津田沼は毎日のように忘れ物をする。
「ごめん、竹中。現国のノート忘れてきちゃった……前回何処までやったかだけ見せてほしい」
「竹中……ごめん。体育着さ、ジャージだけで良いから借りれたりしないかな。うん、ジャージだけで良いから、ごめんよう」
「竹中あ……本当にごめん。筆入れ忘れちゃったから……カッターとハサミは、あるんだけどさあ」
筆入れを忘れるとは相当だ。
そして、クラスの間抜けキャラを独占するかの如く、よく転び、よく言い間違いをし、後ろを不意に振り向けばボーっと口を開けている。
ぼんやりとした性格。
悪く言えば「間抜け」で、良く言えば「害の無いやつ」だった。
そう、俺からしたら、害の無いやつ、だったのだろう。
学年が上がり、俺と津田沼はまた同じクラス、また前と後ろの席の関係になった。
いつものように後ろを振り向き、話す日常。その中で、俺はとある話題を出した。
「なあ、隣街で起きた失踪事件、聞いたか?」
失踪して消えたのが関係のないヤツだったら、大して盛り上がらないのだろう。しかし、消えたのはなんと俺らの高校の男子生徒だったんだ。だからこそ俺は話題に出した。「怖いよな」「何の事件に巻き込まれたんだろうな」そんな会話になると思って。
しかし、津田沼は、こう言ったんだ。
「死んじゃうだなんて、可哀想だよねえ」
「……おいおい、まだ死んだと決まったわけじゃないだろ」
俺はすかさず、すぐに笑って返した。津田沼も「ああそうだね確かに」と笑っていた。
ああ、きっと、ただの言い間違いだろう。いつものように、ぼんやりとした津田沼の口から出た、言い間違いだったのだろう。
だけど、もし仮に、津田沼のぼんやりが、俺の先入観に、過ぎなかったとしたら?
言い間違いではなく、口が滑ったのだとしたら。
津田沼が昼行灯を装って、実は殺人鬼だったとしたら。
もちろんそんなもの、人に話せば「杞憂だ」と言われるのは目に見えている。俺もどうかしてると思うよ。だけど、黙って疑う分には、利口じゃないか。
何より、もしそうであれば、純粋に興奮する。
後ろの席に忍んだ殺意が存在するだなんて考えたら、寒気と興奮が入り混じって風邪を引きそうだ。
ああ、どうか津田沼が、殺人鬼でありますように。俺は後ろの席の友人に、良からぬ願望を抱いていた。
nina_three_word.
〈 先入観 〉
〈 昼行灯 〉