kurayami.

暗黒という闇の淵から

夢見の藍少年は紅色幻に醒まされる

 朝の光が、白いカーテンを通して部屋を眩く染めている。
 ベッドに小さく腰を掛け、血と、溜め息を吐いたのは、紅色が似合う“少女”姿。
 対して、その足元に座り込み、めそめそと涙を流すのは、藍色が似合う少年。
 世界はまるで、二人以外が眠っている夢みたいに、二人だけが早起きしている幻のように、静かだった。
「あのねえ、男の子なんだから、そんなめそめそ泣かないの」
 “少女”は、少年を宥めるように、口から吐き出される血を拭って、優しく言った。
「だって、だって、君が死んじゃうよ」
 少年は聞き分けの悪い子のように、駄々をこね、涙と鼻水を流している。
「私、毎日のように言っていたでしょう。身体が弱いからいつか必ず、こんな日がくるって。今日が最後の日だと思って、毎日過ごしてって」
「でも、まだ今日は、始まったばっかりなのに……?」
 少年の言葉に“少女”は言い返せない。
「ねえ、病院行こうよ。まだ助かるかもしれない」
 涙を拭った少年が、まっすぐ“少女”の顔を見た。
「そうねえ……じゃあ、私のわがままを聞いてくれたら、行こうかしら」
 困った顔して“少女”は、少年を見つめ返す。
「わがまま?」
「あと、もう少しだけ、貴方に甘えて頼りたい。駄目かしら」
 “少女”がそう言って少年の手を握った。恥ずかしさと嬉しさで、少年が高揚する。
「わか……ったよ。少しだけだからね」
 こうなるともう、少年は言うことを聞くしかない。
「有難う。うん、少しだけ」
 しかし“少女”には、わかっていた。
 もう死神が側に立っていて、一秒先には死ぬかもしれないということ。
 少年を悲しませ、一人にしてしまうことを。
 “少女”は少年を騙してでも、最後に話がしたかった。
「ねえ、貴方のこれからの話を、聞きたいな」
「これから?」
「貴方は、この先どうしたい? 何になりたい?」
 少年は悩まずに、すぐに答える。
「君と。いや、貴女とずっとずっと、一緒にいたい。僕が貴女を、守りたい」
 そう言った少年は、最後に照れ隠しに「です」と付け加え、俯いた。
「……そう」
 “少女”は、この先あり得たと思えるような、少年の未来のヴィジョンが叶えられない事実、少年が叶わない現実に絶望して、それを微笑みで隠した。
 そして、保っていたものが決壊したように“少女”の口から血が大量に吐き出される。
「あっ……ねえ……ほら、もう病院に、ねえ」
 少年が動揺し、血を吐き散らす“少女”の背中に手を回す。
「ねえ、やっぱり、こんなの、夢幻なのよ……」
 幼さを残した不老も、願わくばこのまま続くべきだった不死の日常も。
 “少女”は、幻のようなイレギュラーなの中で、いつの間にか少年と同じように、叶わない夢を追っていた。
「死なないで、ねえ、ねえ。僕は、君に」
 少年が伝えようとした言葉が——死によって——途絶える。
 “少女”の頬には、飛び散った血が涙のように流れていた。
「……僕は、そんな夢と幻のような君に、恋していたんだ」

 


 
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ネオテニー

〈 夢幻 〉

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