kurayami.

暗黒という闇の淵から

コンテニュー

 数多の流れ星が降り注ぎ続ける、世界の果て。そこに生まれたのは、世の全てを暗闇に飲み込む憂いの王だった。
 このままでは世界の希望が絶やされてしまう。そのことを恐れたアルピレオ国王は夢の言い伝えにある、最後の希望〈月に魅入られし勇気を灯す者〉を探し出すため、世界各地に聖ウォルフ騎士団を送り込んだ。
 調査の末、太陽の街にて〈呪われし月の聖剣〉を所持する青年を発見した。青年はアルピレオ国王の元へ連れて行かれ世界の心理、そして、憂いの王の暗闇に世界の希望が脅かされていることを、知ることとなる。
 自身が戦うことが使命ならば。戦うことで希望が守れるなら。
 青年は覚悟を決め、聖剣を手に〈勇者〉となった。
 王国を旅立ち、勇者は憂いの王が生み出した七ツのダンジョンをクリアし、世界を暗闇から解放していく。
 その旅の最中、勇者には力強い仲間が出来ていった。
 知恵の賢者。歴史の魔女。創造の錬金術士。
 勇者が旅を続けて来れたのは、この三人がいたからだ。
 誰一人として、欠けてはいけない。
 希望を絶やしてはならない。
 勇者は、常にそう思っていた。
 

 第八ダンジョン、ベガ遺跡。その最下層。
 魔女が臓物を無残に撒き散らし、壁に横たわっていた。
「今まで、そんな、こんなことなかったろ……」
 錬金術士が動揺する。
「今は……悲しんでいる場合じゃないです。彼女が残した最後の魔法が切れる前にヤツに、とどめを」
 勇者が落ち着いた声で、怒りを込めて錬金術士に言った。
「ああ、勇者の言う通りだ。だが、もしヒーラーである彼女を意図的に攻撃したのであれば、こいつは今までのとは違う。気をつけた方が良い」
 賢者が額に汗を滲ませ、後ろに退く。
 三人の前に対峙するのは、陽炎のように揺らめき十五本の巨大な腕を持つ、無数の眼球に覆われたモンスターだった。
「攻撃される前に倒せばいい、だけです」
 勇者が駆け出すのと同時に、斜め前にいた錬金術士がモンスターの巨大な腕に捕まった。
「しまった! 腕だ、腕を攻撃しろ!」
 賢者が叫ぶと同時に弓を構え、勇者が聖剣を振りかざす。
 しかし攻撃は全く通らない。
「嫌だっ、助けてく」
 腕の中で錬金術士が、溶けたチョコレートのように潰れていく。
「う……うわあ、あ」
 勇者の後方で、賢者が覇気のない声で悲鳴をあげ、モンスターに弓矢を連射した。
「冷静に、」
 勇者が振り返る。賢者の上半身は、既にモンスターの魔法消し飛ばされ、その華奢な下半身しか残っていなかった。
 希望を、絶やしてはならない。
 そんなものは、勇者にとって、建前でしかなかった。
 何も考えず、虚無となった〈戦いの使命〉を振りかざし、無謀に勇者は理不尽なモンスターへと立ち向かっていく。
 敗退など、勇者には許されない。
 復活の煌めきが、勇者の死体を包む限り。

 

 

 

 

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〈 敗退 〉
〈 勇者 〉
〈 煌めき 〉