僕が二十五歳になったその日。朝一でソレは届いた。
〈歳を取ってから会話した人一号〉となった配達のお兄さんに、おはようございますと笑顔で挨拶し、受け取った赤いペンで書き慣れた姓をサインして荷物を受け取る。
ソレは、やけに小さな立方体の箱の形をしていて、そしてとても軽かった。
玄関を閉め、改めて手の中のソレに書かれた送り主を確認する。
書かれていたのは、紛れも無い、僕の母の名前。
時間指定によって二年もの過去から、今日の僕の誕生日に向けて郵送された物だった。
僕は窓際で、陽の明かりを頼りにソレを開ける作業に取り掛かる。箱は何重にも包装されて、開けるのに少し手間取った。
最後の無地の白い梱包紙を開くと、中から小さな木箱が顔を出す。
中身は、僕の臍の緒だった。
ああ、一体、どういうつもりなのだろう。
許しを請いている、つもりなのか。
私は捨てないで今まで大事にしていた。そう、言いたいのか。
僕は込み上げてきたモノを静めるように、ソレを部屋の隅へと投げつけた。
入念に梱包されていたのも。わざわざ二年も前から誕生日を指定して郵送したのも、あからさまに大切とでも言いたいかのような、大切だから許してとでも請いてるかのような意思表示で、苛つく。
もう、とっくのとうに、貴女を許しているというのに。
幼い僕の好きな人を貶したこと。暗い山奥に置いて行ったこと。何日も庭の雑草しか食べさせてくれなかったこと。毎晩毎晩、僕の存在と思考を否定し続けたこと。
何より、この世界に僕を産んだことを。
僕はずっとずっと、貴女を恨んでいた。僕にとって世界で、いや、過去と未来を合わせたとしても、貴女以上の罪人は存在しないでしょう。僕という罰は存在しないでしょう。
だけど、僕は貴女を許すことが出来たんだ。
一年前。昔僕を置いて行った暗い山奥で。縛り付けられた貴女は必死に、僕に許しを請いていた。そんな貴女を、丁寧に過去の記憶をなぞって否定した。
苦しまないように入念に、狙いと力を込めて、一思いに首を落としてあげた。
それで僕は許せた、気が晴れたんだ。罰が罪人を消し去ったのだから、許さないことも出来ない。もう何も許さないことはない、きっと全てを許せる。
なのに、何故だろう。
時を越え、再び許しを請いている存在に、苛つくのは。
方法なんて、殺す以外になかった。
罰を産んだのならば、罪人は罰せられるべきだ。
僕は、部屋の隅に投げられた臍の緒を見る。
干からびたソレは、過去に罪人と罰が繋がっていたことを、示していた。
nina_three_word.
〈 郵送 〉
〈 入念 〉
〈 許す 〉