雨が二日三日と降り続き、恋人たちが口を開けて灰色の空を見上げていた、その日。仕事の疲れが取れず、恋人たちの骨が疲労に悲鳴をあげていた、その日。
「あ、れ。ん、あれ」
雨の雫が滴る恋人の男が、家の冷蔵庫を開けて疑問の声を出した。
男の声を聞き、湯船に骨を休ませた恋人の女が洗面所から出てくる。
「どうしたの?」
「コンビニでさ、ムースをさ、僕と貴女の分買ったんだけどさ」
「うん、うん。……ああ」
事態を察した女が、クスっと笑った。
「冷蔵庫の中に既に、何故か同じムースが二つあるんですよ」
「またですか」
「またですねえ。どうしよっか」
同じ物を買ってきてしまう。それは恋人たちにとって初めてではなく、頻繁に、日常的に、繰り返していた。
「しかもムース。一人二つはちょっと重たいね?」
そう言った女が、レモンティーを入れようとグラスを探し始める。
「ね。一週間に一回、いや、一ヶ月に一回とかでもいいかもなあ」
男がそう言って、女に紙パックのレモンティーを渡した。
「わかるかも。ちょっとしんどいね」
そんな会話のやり取りをしながら、恋人たちは〈ムースの時間〉の準備を仕上げる。
テーブルの上に二つのムースとグラスが並び、恋人たちが席に着いた。
「今後、こういう類の買い物するときは事前に連絡した方がいいわね」
「一応連絡したよ?」
「ん、ああ本当。お風呂入ってたから知らなかったよ」
恋人たちがムースを口に運ぶ間にも、悪天候の風がガタガタと窓を揺らす。
「雨止まないねえ」「雨止まないわね」
「あっ」「ふふ」
声が重なり、思わず女が笑った。
「ほんと、面白いぐらい似てるよね、僕ら」
男が呆れるように言って、最後の一口を運ぶ。
「双子みたい。それに加えて互いが互いに影響して、個性を感染し合ってる」
女は微笑しながらそう言って、小さな一口を運ぶが、ムースは全く減っていなかった。
「個性が感染していくと、何が出来上がるのかな」
「一人と一人が、一人が二人になるのかも」
「僕らという一人が、二人ということ?」
「そういうこと」
それ以上、恋人たちは会話を続けようとしなかった。
何故なら〈僕らという一人〉が完成しないことを、恋人たちは互いに知っていたから。
似ているということは、同じではない。
同じではない、互いに違う目的を持って一緒に居る。
飼い主のように餌を必要とされる女。犬のように餌を必要にしている男。
生きる上で男の存在を必要としている女。生きている存在を必要とされる男。
それが死ぬまで似続けて永遠に一致しない、恋人たちの永久機関平行線。
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〈 似ている 〉二人の〈 アベック 〉