kurayami.

暗黒という闇の淵から

ティーレックスたち

 最初に殺されたのは、三年生を担当していた現代国語の教師だった。
 それが一昨日のこと。昨日は二年生担当世界史と、三年生担当情報Cの教師が殺された。評判の悪い教師ばっかだな。
 まあ、この学校に評判の良い教師なんて、いないだろうけど。大人しめの僕がそう思っているんだから、間違いない。憎めない奴なんて二年の現代国語の前田ぐらいだと思う。
 クソみたいな大人たちと、訳のわからない校則と、管理された寮生活。
 総じて最悪なスタンス。
 しかし、今日そんなスタンスが崩れるかもしれない。聞いたところによると〈馬鹿みたいに大きな嵐〉が、今晩来るらしい。何をするのかは知らない。同じクラスの三瀬から聞いただけだし。僕ら男子が言う嵐というのは革命的祭りを指すんだけど、教師三人も死んでいる時点でもう〈馬鹿みたいに大きな嵐〉だと思う。むしろ嵐というより、気持ちの良い日の晴天みたいなものだ。
 そんな嵐への思考も忘れ、歯磨きをして寝に就こうとした頃。廊下の窓の外が、明るいことに僕は気付いた。
 職員の住んでいる寮が燃えて、夜の山を照らしている。
「おーい白木、はやく行かないと殺し損ねるぜ」
 斧を片手に持った三瀬が、僕を見つけて声を掛けた。
「全員参加的な嵐とか聞いてないんだけど」 
「全員参加だからこそ事前連絡しなかったんだぜ」
 三瀬が「してやったぜ!」って顔で僕にそう言うけど、それなら事前に知ってたお前有利じゃんって、喉元まで出て言わなかった。
 外を見ると、巣穴に水を流し込まれた蟻のように、教師たちが走り回っている。
「さ、ストームを巻き起こそうぜ」
 そう言って三瀬が、僕に持っていた斧を渡した。
「三瀬のは?」
「俺はたくましいからさ。そこらにあるの大体、武器になるんだわ」
「へえ、たくましいじゃん」
 いつもの軽口なやり取りを三瀬としながら、外に出る。職員寮が燃えているからか、いつもの夜に比べて外が明るい。
 玄関を出たところで、一年担当の体育教師が大勢の生徒達に囲まれ、羽交い締めにされていた。どうやら寮に乗り込もうとしたらしい。脳筋とはこのことを言うのだろう。
 手の余った生徒達が、ここぞとばかりに団結して情報共有をしている。
「やっぱり校長殺すのがメイン?」
「何言ってんだよ、校長なら序盤で死んでたじゃん。ジジイだからさ」
「あの三年の音楽教師は? 名前知らないけど、理不尽に殴られたことあるんだよね」
「あいつタチ悪いよな。北寮で拷問受けてるって聞いたし、言ってみたら?」
「あれ、現国の前田は?」
「真っ先に逃げ出したらしいぜ」
「一応追って殺すか……」
 集まっていた生徒たちが、各々目的を持って散っていく。
 残ったのは三人の後輩と、尊厳を奪われた体育教師のみ。
「三瀬先輩、どうしましょう。僕ら武器持ってなくて」
「ああ、それなら大丈夫、ここにあるから」
 三瀬がそう言って、斧を持った僕を親指で指した。
「お前ら、お前ら……許されないぞ。確実に罰を受けるからな、わかってるのか、ええ?」
 体育教師がそう言って僕たちを睨みつける。だが、その口は恐怖に曲がっていた。
 そういえばこいつ、僕が読んでいた本を「勉強しろ」だの訳のわからないこと言って、破いて捨てたよな。
 僕は斧を振りかざし、狙いを定める。体育教師がお約束のように、僕を止めようと何か叫んでいた。
 きっと誰が悪いだとかは、そういうのはない。
 強いて言うなら、この高校のスタンスが、僕ら思春期の型を外しやすいスタンダードな感情と相性が悪かった。それだけのことなんだ。

 

 

 

 


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〈 スタンダード 〉
〈 ストーム 〉
〈 スタンス 〉