kurayami.

暗黒という闇の淵から

初夏心中

「ねえ、どこに行こうね」
 高校生の女の子は、隣に座っている同じ高校生の男の子に、明日の予定を聞いた。
「どこ……どこにしようか。綺麗な、空が見える場所が良い」
 男の子は、暗い顔で遠くを見るように、女の子の問いに答える。
 二人が座っているのは、山の中の野原、大きな石の上。
 頭上には夏の夜空が広がっていて、涼しい風が吹いていた。
「空、どうして?」
「だって、暗くて狭い所なんて怖いじゃんか」
 男の子が、遠くを見ていた目を静かに閉じる。
「死ぬときぐらい、明るい気持ちでいたいから」
 男の子の言葉を区切りに、二人は沈黙する。
 心中を探す旅、四日目。その夜のこと。
「……そうね。私も怖いよ。でも、だから、貴方には私がいるんじゃない。だから私には貴方がいるんだよ」
 女の子が慰めるように、男の子の手を握った。
「大丈夫。大丈夫だよ、きっと一瞬で死ねるよ」
「でも、苦しい想いは、するだろうから」
「苦しくても私が貴方を離さない」
「……ごめんね」
「どうして謝るの」
「こんなところまで連れてきて」
「私が貴方に着いてきたのよ」
 悪者になりたかった男の子は、女の子の笑みを見て、敵わないなと諦める。
「でも、悲しいな。来世で私たち、また会えるかなあ」
「来世があればきっと、僕は必ず探し出すよ。もし見つけられなかったらその次の来世で、駄目だったらまたその次の来世まで。会えるまでずっと、探す」
 真面目な顔してそう言う男の子を、女の子が子供を可愛がるように、目を細めて見た。
「ふふ、嬉しい。けど、だけど。きっと来世の私は〈私の残骸〉であって、その次の来世はもう残骸も残ってなくて、私じゃない」
 女の子が石から飛び降りて、一歩一歩、今確実に自身のモノである足で伸びきった雑草を踏みつける。
「だから〈私と貴方〉にとっての転生来世は一回だけ。来世で〈私の残骸〉と〈貴方の残骸〉が出会えなかったら、もうそれで、おしまい」
 そう言った女の子は、男の子から見えないように、根元に生えていた小さな百合を足で踏み潰している。
「私、死ぬことは怖くない。けど、貴方と会えなくなるのは嫌」
「なら、来世なんてあって無いようなもの」
 男の子が石から降りて、女の子に近付く。
「心中出来るまで、あと何日あるかわからない。けど、そうだね、来世なんて考えないで、もっと一緒にいるべきなんだ」
 そよ風が吹いて、鈴虫の鳴き声が一瞬無くなった。
「だから、僕から一歩も、一瞬も、離れないでほしい」
 死ぬまで、死んでも、離れないでずっと一緒にいて欲しいと願う、男の子。
「ええ、もちろん。私はどこにも行かない。貴方とずっと一緒」
 しかし、男の子に対し、願うならば、死なずこの世で生を共に消耗したいと、女の子は心の底から想っていた。

 

 

 

 


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一回限りの〈転生〉