kurayami.

暗黒という闇の淵から

スイーツスイーツ

  二人の少年が、一つの小さな世界を下方に挟み、対峙していた。
 そのうちの一人は、市販の紙マスクで口を隠し、第一ボタンまできっちり閉めた白シャツを着て、上からゆったりめの黒いポンチョを羽織った〈パリパリの白チョコケーキ〉の少年。
 もう一人は、恋人から貰った青い石のネックレスを付け、クリーム色の半袖ティーシャツをラフに着こなし、真っ赤なハットを頭に被った〈苺たっぷりのミルクレープ〉の少年。
「今日という今日を待ち望んでいたぞ。ミルクレープ」
 白チョコが不敵な笑みを浮かべて、ミルクレープを見た。
「僕も今日を楽しみにしていたよ。お互い良い勝負が出来るといいね」
 ミルクレープが微笑んで、白チョコを見返す。
「そうやって余裕な顔をして笑っていられるのも……」
「今だけだって? 安っぽい言葉は使わない方が良いよ、白チョコ。ほら、そんなことより、一体どんな駒を用意したんだい。僕に見せてくれ」
 まるで先生が生徒をあやす様に、ミルクレープが白チョコを煽った。
「ああ、わかった、知っていた。お前ってそういうヤツだったよな。嫌なヤツ。言われなくたって見せるし、お前のことは絶対ぶっ潰す」
 そう言って白チョコが、下方に広がっている世界に、手持ちの軍を甘い香りと共に召喚する。
 黒い煙を上げ、世界に召喚されたのは、ココアパウダーの歩兵達と、板チョコの竜馬の群れ。そして、歩兵に囲まれた〈白い王〉。
「……それだけかい?」
 ミルクレープが眉を上げて、白チョコに聞く。
「ああ、今はな。ほら俺は見せたぞ。お前も見せろよ」
 白チョコがそう言い切る前に、ミルクレープは自身の軍を世界に召喚していた。
 桃色の煙を上げて召喚されたのは、複数の、牛乳と卵のポーンと苺のルーク。少数の白砂糖のビショップ。そして〈クリームのキング〉。
「さあ、駒は揃ったよ。君がしたい戦いがどんなものか、楽しみだ」
「これから倒され無様に消えるヤツが、そんな楽しそうな顔をしてていいのか?」
 白チョコがそう言ったのを合図に、ココアパウダーの歩兵達が板チョコの竜馬を先頭にして、一斉に走り出す。
 ミルクレープからすると一見、白チョコの軍勢が考え無しに走り出しているように思えた。
 念には念を、ミルクレープの兵隊は守りを堅める。そしてすぐに、白チョコの軍勢がぶつかった。
 まるで戦略の無い殺戮が、無様にも始まる。
「君がしたかった戦いって、これなのかい? 随分と悪趣味だ」
 肩を竦めて、ミルクレープが言った。
「悪趣味で結構。まあ見てろ、すぐにわかる」
 白チョコに言われるがまま、世界を見下ろしていたミルクレープが、一つの変化に気付く。
 ココアパウダーの歩兵の中に、一人、雰囲気が変わりつつある者がいた。
「あれは……」
「アイツだな。ああ、きっと成るぞ」
 ココアパウダーの歩兵は、殺戮の勢いを止めない。それどころか勢いを増していた。
 次々と薙ぎ倒され、殺されていくミルクレープの軍勢。
「まさか、意図的に成長させたのか。生まれるか生まれないかわかならない殺戮を起こしてまで……」
「いや、一人は生まれる計算だったぜ。そのために金も銀も作らないで大量の歩兵を作ったんだからな」
「なんて数任せで、大胆なんだ……」
 ミルクレープが呆れている間にも、成った歩兵が〈クリームのキング〉に近付く。
「さあ、王手だ。次の一手でお前のキングは死ぬんだぜ」
「それは、参ったね。だけど、殺しで終えたくないのが、僕のセオリーだ」
 その瞬間、突如現れた大量のカスタードのナイトが、成った歩兵を抑えた。
「馬鹿な! 何処から現れたんだ」
「牛乳と卵は、何にだってなれる。君と同じように戦いの中で料理されたのさ」
 そして〈白の王〉が、カスタードのナイトに囲まれていく。
「これで、チェックメイト。勝負は終わりで、次の一手もない。王も死なない」
 唖然とする白チョコに向かって、最後、ミルクレープが子供らしく笑った。
「そして、君の負けだ」

 

 

 

 


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〈 王手 〉〈 チェックメイト