大人の取り決めた枠から、生活を供給されている子供は逃れられない。
それが例え、子供たちの中に確固たる意思があったとしても。
「……なんで」
夏の夕暮れ。公園のブランコに座った男の子が、絞り出すような声を出した。
女の子は黙ってブランコを二往復漕いで、ポツリと呟く。
「お父さんとお母さんが、そう言うから」
「それは、聞いた」
男の子が苛立って、足元の砂を踏み躙る。
「なんで。だって、決断するには早いだろ」
「うん、私もそう思うよ。けど、私が心配なんだって」
取り残された昭和の時間。背の高い金網で囲まれた街。
世界に蔓延する奇病は、人々を狂わせ、生きる屍へと変貌させていた。
「まだ、まだ三人しか感染していないし、被害だって少ないじゃないか。役所も警備を増やすって。なにより、外の方が……」
だって、まだ。男の子は駄々を捏ねるように繰り返す。
「きっと……襲われたのが私じゃなければ、この街を離れる必要もなかったんだろうね」
胸を抑えて言った女の子の言葉に、男の子は黙ってしまった。
女の子のブランコはいつの間にか止まっている。
蝉の鳴き声も。
夜の静けさが街を包み、帰ることを急かしていた。
「やだなあ。やだよ、貴方と離れるの」
泣くのを我慢するように女の子が小さな声を出す。
男の子は黙ってどうするべきかを考えた。女の子を泣かせないために、離れないために。しかし、男の子にはどうすることも出来ない。
子供、だから。
「……感染する、危ない病気とか、大人の正しい取り決めも、僕が子供で何も出来ないのも、何もかも、全部全部」
男の子が、暗くなった地面を見ながら、言い続ける。
「くだらない」
消え入るように、無力らしく。男の子は呟いた。
「そうだね。本当に」
本当に、くだらない。女の子は声には出さないまま、空を見上げる。
「でも、だけど、貴方は何も悪くない」
「何も出来ないよ、僕は」
女の子が立ち上がり、ブランコに座っていた男の子の頭を胸に抱き寄せた。
「いいの。いいんだよ。もう、諦めようよ」
「でも、だけど」
「いい、の」
嗚咽混じりの女の子の声を聞き、男の子が泣き始める。
「や、やだ」
「私だって、嫌だよ」
暗闇と門限と大人の取り決めが、二人を追い詰めていた。
「離れるぐらい……なら、いっそ世界なんか、終わってほしい」
涙を流し、女の子が世界の破滅を願った。
女の子の願いを引き金に、男の子の思考が淀む。
大切な人が襲われ、離れ、泣いている。理不尽な不幸をもたらす世界を、男の子は心の底から恨み、呪った。
この肯定するしかない、くだらない世界を。
nina_three_word.
〈くだらない〉と呟く男の子に〈そうだね〉と返す女の子。