今更過ぎる後悔に、日々思い返しては癖になってしまう。
人生で初めて行ったクラブで知り合った、歳上の女。気に入られ、朝まで踊り明かし、次の日の夕方過ぎまでホテルで過ごしたその日に、付き合い始めた。
その女は俺の初々しさを気に入ったと言うが、今となって本当の所はわからない。少なくともジーマを口移しで飲まされたら、大抵の男はどうにかなってしまうものではないのか。未だにそれもわからないままだ。
笑ったときの細く鋭い口角、浮き出た鎖骨に被せた黒髪の緩いパーマ。それがクラブのサイケデリック色の下でも、薄暗い部屋のベッドの上でも変わらず色気があって、俺はそれだけで惑わされ虜にされて踊っている。ああ、とても愉快で若い俺だ。
女はそんな俺を、遊び心に楽しんでいた。軽い気持ちで俺に手を差し伸べて可愛がり、また俺もそれに甘えて〈馬鹿みたいな本気の恋〉を〈大人のごっこ遊び〉に被せていた。
俺が切なくもどかしい気持ちを隠して、本心で笑っていた事すら、女は楽しんでいただろう。女の仕事が終わるまで、駅前のカフェで俺が待っていたことも、愉悦に浸れたことだろう。
あの女のために髪を伸ばした。
あの女のために金を借りた。
あの女のために学校を休んだ。
そうやって貢献する度に、女は口癖のように「馬鹿だねえ」と言って俺を楽しんで可愛がる。
そんな女の心の内。その下衆な娯楽感情を見透かし、わかっていながら、俺は依存を止めれず、脳を溶かして堕ちていく日々を過ごした。
貢献も依存も好意も、女による巧みな懐柔。
全ては、女の手のひらの上だった。
ああ、歳を取った今だからこそわかる。懐柔を上手に出来るからこそイイ女であり、それに貢献し懐柔され切ってしまう男はダメな男だということが。
俺は、ダメな男だった。
最後の晩。女に飽きられた俺は、哀れにも「離れたくない」などと我儘に縋った。内心ではそれが、女にとっての可愛い事だと信じて。
縋れば縋るほど俺は女の懐柔に溺れていき、希望を無くし、失恋していく。
結果は言うまでもない。当然の結果に俺は女から絶縁され、オールを無くした船は陸を離れていくのみだ。
俺はそんな〈大人のごっご遊び〉に被せた〈馬鹿みたいな本気の恋〉を今でも思い出し、何が悪かったのかとジーマを片手に整理する。
今更大人になっても、遅いというのに。
しかし、こうして後悔を思い返す度に、俺は恐ろしい事を自覚してしまう。
俺は今も、あの女の手のひらで踊らされている事を。
あの日、クラブで下手な踊りで、夜を明かした日から。
nina_three_word.
〈 今更 〉
〈 懐柔 〉
〈 貢献 〉