kurayami.

暗黒という闇の淵から

殺人鬼役

 モノトーンでまとめられたシンプルな部屋に、赤の差し色が入る。
 気付けば頭が割れた女は、壊れたロボットのようにふらふらと歩いて、壁に激突してから力尽きて倒れた。
 僕の拳銃は片手の中で小さな煙を吐き出している。女の遺体なんかよりも、煙の方が「撃って殺した」という事実に繋がってしまう現実。
 また、あっという間の死のシーン。
 瞬きをしている間にも、その一大イベントは訪れて過ぎ去っていく。ハロウィンの夕方にうっかり昼寝をして、起きてたら全て終わったかのような、後悔と喪失感。
 終わりと決定付けるモノが一瞬だなんて、毎回もったいないと思うぜ。まあ、そもそも決定だからこそ、一瞬なのかもしれないけど。
 弾丸がいつもの百倍ぐらい遅かったら、いつまでもその瞬間を眺めてられるんだけどな。

 拳銃を片手に女を騙すようになってから、二十四時間の誕生日を二回迎えた。
 二年分の歳を取った間に、死のシーンを見送った女は五人になる。
 一人でいる歳上の女が狙い所だった。「私は頼れる」という自信を植え付けてやれば、あとはちょろい、すぐに落ちていく。
 ……ああ、そうじゃないな。自覚するために、常に自身の行動理由を確認するためには、時間や女の話なんかじゃない。
 死への執着。
 ずっとわからなくて、知りたくて拳銃を手に取った。しかし、今もわからないままだ。
 母さんと妹がクソ親父に殺された場に、僕は立ち会えなかった。ずっとずっと、それだけを後悔している僕がいる。ああ、なぜ。
 なぜ、死んだという事実より、死のシーンに立ち会えなかったっと後悔しているのか。
 それを知りたいがために、僕は殺人鬼の役を買って出ている。
 しかし、何度銃弾を放っても、いまいちピンと来ない日々だ。先月殺したモノクロ女だって、小説のあっさりした殺人描写のように、瞬きをしている間に死んでしまった。
 そう。瞬きを、している間に。

 台風が遠くで暴れているような清々しい今日。路地裏で酒を片手に持った、死んだ目の年上の女を口説いて家に上げてもらった……が、ドジをしてしまった。
 男にフラれ自暴自棄になっていた女は、最高な程ブラコンだった。しかもその兄も重度のシスコンときた。イかれにイかれを輪にかけた兄妹、お似合いだと思う。そんな兄妹愛のおかげか、拳銃を取り出した奇跡的瞬間に女の兄が駆けつけてきた。
 拳銃を奪われ、結果この有様だ。腹に風穴が開いている。
 死ぬと、確信した。そう思うと今銃口を再び向けられているこの瞬間、見事に思考以外がスローモーションになって、死のシーンが長くなる。
 殺される立場になって、やっと気付いた。死ぬからこそ、瞬きをして見ないフリをしていたと。死に恐怖していたと、今更になって理解した。
 こんな死のシーンなのに、しみじみと思ってしまう。
 僕はただ、恐怖を分け合いたいだけだった。

 

 

 

 


nina_three_word.
〈 しみじみ 〉
〈 まばたき 〉