kurayami.

暗黒という闇の淵から

夜の王

 この夜の暗闇が濃くなるほど、僕は追い詰められる。
 二十三時を過ぎると眠りに就く家族。零時を過ぎる頃には、ソーシャルネットワークの愛しい住人たちが徐々に姿を消していく。
 深夜。このだだっ広い世界、人が消えた街、狭い明りの中で、僕ら夜行性生物は孤独な夜の王だ。
 勿論、それは少人数故の、虚しい空想妄想でしかないけれど。
 枕に頭を預けて、まだ息をしている友人と携帯越しに会話をする。布団に包まって、静寂の中で誰にも邪魔されない二人だけの秘密。そんな会話が何処か愛おしいのは、街灯に照らされて孤独がぽっかり浮き彫りにされてしまっているからだ。
 夜通しの会話は、薬物のように互いの孤独に深く侵食し合う。
 だからこそ、突然友人がプツっと寝てしまえば、僕の孤独は静かに飢え始めるんだ。
 やることがなくなって、洗面所で煙草を吸ってみたり、何も用が無いのに近所のコンビニや川に行ってみたり。その行動に意味は無い。
 何かを求め、ゾンビのようにふらつく。
 気付けば、夜の三時。僕は寝床に戻って天井を見つめていた。
 真っ白なコンクリートの天井に映すのは、戻らない過去の情景。あの頃は、あの頃はと繰り返し、忘れないように? いいや、縋るように。
 夜更かしの味を知ったのは、中学生のとき、好きな子とのメールのやりとり。夜更かしの癖がついたのは、高校生のとき、主役になれるのが心地良くて。そうやって夜更かしを繰り返している内に、僕は夜行性生物の仲間入りをした。
 いつの間にか、皆がいるはずの昼間から外れて、生きていると実感出来るのがこの夜だけになってしまっていた。
 確かに人が少なくて〈僕らだけ〉と思える夜は心地良い。孤独同士のやり取り。孤独の中での思案思考は何より研ぎ澄まされる。
 だけど、日々、数時間後に訪れる虚無を宿した朝の陽射しに、僕は酷く怯えている。愚かにも一日の始まりを恐れいる。
 何も成し遂げられない夜が、僕の存在意義を追い詰めて脅かすから。
 このまま、幾つの夜をこうして、乗り越えていくつもりなのだろう。
 何処まで身体と意思の一部を、夜に溶かし続けるのだろう。
 そうこう思案している内にも、恐れていた朝陽が、優しい温度と共に部屋を包み込んで、遅れた眠気が僕を襲う。
 きっと、僕はいつになっても、夜の底からは抜けられない。
 夜の怠惰で心地良い依存。それから逃れる術も無く、何より逃れる必要も無い。
 この暖かい朝陽の中の眠気ですら、気持ちが良いと心から思えてしまうのだから。

 

 

 

 

 

nina_three_word.

〈 存在意義 〉

〈 夜行性 〉

〈 一部 〉

〈 底 〉