kurayami.

暗黒という闇の淵から

ワールド・シニカルフレンド

 都内の中央線と京王線の果て。山に囲まれたのどかな街に、友人の君はいる。
 家を出る前に見たニュースで“秋のような涼しさ”と言っていた気がするけど、そんなことを忘れてしまっていたぐらい、今日は暑い。髪の中に篭った熱が汗となって、俺の頬を通って落ちていく。
「久しぶり、遊びに来たよ」
 なんて、君に向かって言ってみる。だけどごく当たり前のように、返事はない。
 相変わらず、冷たい墓石のままだったから。
 太陽光が反射して角が光っている。お盆を過ぎた後だったからということもあって、既に墓は手入れがされていた。
 あんなに毛嫌いしていた家族に、世話をされる気分はどうだい。君なら「手入れされてない墓の方がカッコいいでしょ」だなんて、言いそうだけど。でも、ちゃんと、君の家族は悲しんで涙を流していたよ。
 俺はというと、相変わらず悩みのない生活、愚痴を聞く側の人間のままだよ。まあ、君ほど悪態をつく人はいないけど。
 ふと、こうした心の声は君に届いているのかと、疑問に思う。
 幽霊になってそこにぷかぷか浮かんでいるのか。不機嫌な顔で冷たい目で笑っているのか。
 だとしたら、ほら、この煙草をあげるから、ちょっとは機嫌を直してくれよ。
 そういえば君が死んでから、何回か煙草を吸ってみたんだ。やっぱり俺には煙草の良さってのがわからないや。君があんな苦い顔をして息をするように吸っていたのが理解できない。
 ついでに言えば「反吐しか出ない」と言っていた君が世界の嫌いな部分も、未だに理解できてない。
 君が「生きてるだけで無駄なのに」って言っていた爺ちゃん婆ちゃんだって、俺からしたら頑張って生にしがみついて偉いと思う。君が「その給料でどんな悪いことするんだろう」って言っていた警察だって、俺からしたら正してもキリのない社会を守って、立派な正義の味方だ。
 俺はまだ、この世界を嫌いになれない。君みたいに〈死ぬほど〉世界を嫌いにはなれないなあ。
 だけど、君のように世界の汚い部分を主張する奴がいないと、不安になるよ。
 何か、右向け右に、飲み込まれてしまいそうで。
 そう不安になる度に、君が一度だけ言った言葉を思い出すんだ。

「私はお前にシンパシーを感じるから、気に入ってるんだぞ」

 あの言葉は、どういう意味だったんだい。俺と君に、どんな共鳴感情があったんだ。
 きっと、漠然とした不安が生まれる度に、何度もここを訪れてしまうと思う。だから次来るときまでにはどうか、また世界の愚痴を話せるようになっていてくれ。
 そしたらそのときに、俺のことを教えてもらうから。
 ああ、無理か。

 

 

 


nina_three_word.

〈 シニカル 〉
〈 シンパシー 〉